2016年8月27日ーーホットなジェラートの日part1
うぬぅ……今日も大変暑うございます。
時折雨は降りますが、スコールのようにならずさぁさぁと小雨や通り雨程度。ちっとも涼しくなりません。
こうなれば、
僕料理人ではあるけど、未熟ながらも『パティシエ』でもあるのですよ!
と言うわけで、
「エディオスさーん!」
「ん? どうしたカティア? そんなに急いで」
突撃しますはお城の王様のエディオスさんにです。
側に控えますは、その補佐たる宰相さんでぼ、僕の婚約者さんでもあるセヴィルさん。
後、仕事の関係でこの執務室に来ていたエディオスさんの妹さんのアナリュシアさんことアナさん。少年神様のフィーさんはどこかへ行かれてるご様子だ。
「ちょっと作らせていただきたいものが」
「お。なんだまた美味そうなもん作ってくれんのか?」
「はい。こうも暑いので『ジェラート』と言う氷菓子をと」
「ジェラート? なんだそりゃ?」
「エディお兄様。氷のお菓子と仰ってましたから、またカキ氷のようなものでは?」
「えっ……と、氷菓子とは言いましたが、実際大分違います」
「そうなのか?」
セヴィルさんの問いに僕はこくりと頷く。
かき氷は単に氷を削ったのにシロップをかけるだけだけど、ジェラートは全然違う。
どっちかと言えば、『アイスクリーム』 に属するからね。作り方から言っても。
だけど、この世界のデザートはほとんどが焼き菓子とケーキにゼリーなんかの洋菓子で、氷菓子は総じて少ない感じだった。
和菓子はもちろんのことナッシング。この前の水無月が初めての和菓子導入だしね。
あの時作った餡子は、食べきれない分をあんパンにしておやつに出したりして消費しました。あんパン大好評でしたよ。
じゃなくて、
「卵や生クリームなんかを使う冷たくて甘いお菓子なんです」
「…………どんなんだ?」
「少し想像出来ないな」
「わたくしもわかりませんわ」
やっぱり、黑の世界じゃ氷菓はない感じなんだね。かき氷の時も驚かれたし?
調理場の皆さんも同じようだったからねぇ。
うーん。でも、もう少し説明しやすいのに一体どう言えばいいのか悩むなぁ。
「何してるの皆して?」
「フィーさん」
遅れてご登場、創生神のフィーさん。
暑さで茹だるにも関わらず、相変わらず黒い装いのまんま。見てて暑くなりそう……。
けど、汗は多少なりとも掻いてるようで、額に薄っすらと汗模様。
フィーさんは僕が呼ぶとうん?と首を傾いだ。
「どうかしたの?」
「今皆さんにこれから作ってみたいお菓子の説明してたんですが、どうもうまく伝わらなくて」
「お菓子⁉︎ どんなの⁉︎」
タタタッとフィーさんは僕のそばにやってきて、お馴染み記憶探査の魔術を行使されます。
あれ、今思ったけどこれってフィーさん以外も出来ないのかな?
ちらっと皆さんを見渡すと、視線の合ったセヴィルさんやアナさんはふるふると首を振った。
「簡単なように見えるが、記憶探査の魔術はフィルザス神自身が編み出したものでも高度な魔術だ。俺でもごく短時間しか無理だな」
「わたくしも行使しように魔力の乱れが著しく生じて無理ですわ」
「ほへー」
意外にも超高難度な魔術のようです。
フィーさんはこの世界の創生神だから簡単に出来るのかな?
とりあえず、フンフンと頷きながらも楽しそうにされてるフィーさんを皆で待つことになった。
「見たことない冷たそうなものだねぇ?」
「フィー、どんな感じなんだ?」
「うーん…………ムースなんかを冷たくしてあるような見た目だったけど」
「全然違いますって!」
やっぱりないものを無理に説明するのは難しいみたいです。
ここはやはり、作らなければわからないだろうけど。
「でも、美味しそうにぺろぺろ舐めてて暑さを凌いでる感じだったねぇ?」
「「「舐める?」」」
「コーンに入れた時の食べ方ですね?」
どうやら、僕なんかがお店で買った時の様子も探査で見たようです。
カップもいいけど、香ばしいピッツェルコーンに入れたのもいいよね。甘くて冷たいアイスの箸休めになるし、サクサクと美味しいもの。
「ますますわかんねぇぞ……」
「カティアはそのジェラートが好きなのか?」
「大好きです!」
嫌いな人はごく少ないと思うけど、甘いもの苦手な人には無理かな?
って、目の前のセヴィルさんがここじゃその筆頭じゃないか!
「あ……セヴィルさんは食べにくいかもです」
「? ああ、たしか甘いものだと言っていたな」
「うぅ……苦味の効いたお茶のもあったりするんですが、ここのお茶だと甘くなりますしね」
紅茶ベースだと総じて甘い味付けになっちゃう。抹茶なんて見たこと無いもん。無理です、おぅふ。
「ゼルお兄様は本当に甘いものがお好きではありませんものね」
「どうも、口の中に広がるあの感じが好きになれないからな……」
「逆に辛いもんは何でもござれだよな?」
「まあ、あれはいい刺激になるしな」
「辛いもの大丈夫なんですか?」
びっくり。激辛系がいける人には見えないもの。
むしろ、苦味のあるものとか甘さ控え目なのなら何でもござれに僕は見えるよ。
って、ちょいと待てよ?
「ありますよ、辛いのも!」
「え、あんの⁉︎」
「……そうなのか?」
「はい!」
一回だけだけど、作ったことがあるんだよね辛いジェラート‼︎
嬉々として頷けば、セヴィルさんの目になんだかきらりと光るものが見えた気がした。
あれは、余程辛いものがお好きなんですね。好みの味付けがわかって、僕もなんだか嬉しくなってきちゃったよ。これは作り甲斐がありそうだ。
「ちょっと、辛いのだけにしないでよね?」
「あ、はい。ちゃんと普通のも作りますよ?」
さすがにあれを全員に出すのはしのばれるし、僕も全部食べるのは無理です。
「まあ、いいぜ。冷たいもんは俺も食いたかったし、ゼル用の辛いのもちぃっと興味あんな?」
「ありがとうございます!」
と言うわけで今回も滞りなく許可を貰えたので、上層調理場へフィーさんとレッツゴー!
♦︎
「……カキ氷とは異なる氷の菓子ですか?」
「うーんと、生クリームや卵を使ったものなんですけど」
「面白そうですね。僕らも作らせてもらいましょうよ料理長」
「……そうだな」
早速調理場に来てマリウスさん達にジェラートの説明をすれば、副料理長のライガーさんは乗り気です。マリウスさんも少し考えられた後に参加することを決めたようです。
とは言え、
「種類はピッツァに匹敵するくらいありますから、セヴィルさん用の辛いジェラート以外をどうするかはまだ決めてないんですよねー」
「辛いのを、ですか?」
「最初は甘いんですけど、後からガツンと辛さがくるんですよ」
作った時は興味本位だったけど、全部は食べ切れずに職場の皆となんとか処理したんだよね。
「いかにも、セヴィル様が好きそうなものだね」
「よっぽど好きなんですね?」
だったら、今度のピッツァに唐辛子ソーストッピングしたの作ろうかな?
まあ、それは一旦置いといて。
「ココルル(チョコ)は一品入れたいですね」
アイスでも鉄板のチョコアイスは欠かせない。
僕としては、チョコチップジェラートがオススメだけど。
「ほう。ココルルをですか。他にはどんなのが?」
「プチカ(苺)にリルシェ(桃)なんかの果物を練り込んだものならたーくさんありますね! 後は、パルフェ(ヨーグルト)だったり、お茶やコフィー(珈琲)なんかも」
「組み合わせ次第で、ですか。それは作り甲斐がありますね」
でも、あんまり時間もないから辛いの以外でも作れて2、3個が限界かなぁ。
僕のレパートリーもそこまで多くないしね。
「とりあえず甘い、甘酸っぱいを1種類ずつ作りましょう!」
「いいねぇ。甘いのは何にするの?」
「無難に、ココルルを砕いて混ぜ込んだのがいいですね。甘酸っぱいのには、プチカやフェイ(ブルーベリー)なんかの果物をたーくさん練り込んだのがいいか、パルフェでカッツ(チーズ)風に仕立てれるものもありますが」
「もうこうなったら全部食べたい!」
「そう言うと思いましたよ……」
なので、全部で4種類。
これは急がないとね。
だけども、僕らには魔術があるから冷却するのは一瞬で出来ちゃうからそこを省略出来るのだけでも大分助かる。
なので、まずは慣らしも踏まえて簡単なチョコチップジェラートからの仕込みから参ります!
「ココルルはどれくらい砕いておけばいいのかな?」
「この板状を全部サムト(ごま)より大き目にお願いします」
「任されたよ」
チョコチップ制作はライガーさんにお願いすることにして、僕とフィーさんはその間にジェラート本体の仕込みに入ります。マリウスさんには、他のジェラートの材料を取りに行ってもらってますよ。
「牛乳と砂糖で練乳を作ります!」
「レンニュー?」
「一種のソースだと思ってくだされば。プチカにつけたりかき氷にかけたりもするんですよ」
「ふーん?」
卵有りのもいいんだけど、この方がミルク感たっぷりで甘くてチョコチップとも相性抜群なんだよね。
ネットでレシピ見つけて実践したら、物凄く気に入っちゃったんだ。カロリー気にし過ぎてたら料理人なんてやってられません。
「まずは材料を小鍋に入れて弱めの中火にかけてー」
吹きこぼれないように要注意。
それと焦げ付かないように鍋底を優しくかき混ぜて、ねっとり感が出るまで約30分。時々様子を見ながら、僕はその間の時間を無駄にしたくないので次の作業工程へ移ります。
「プチカやフェイはこれくらいで大丈夫でしょうか?」
「充分ですよ!」
マリウスさんが持って来てくださった果物入りのジェラートの下準備。
生の果物もいいけど、これを今回の場合は……。
「これを一旦凍らせます!」
「え、なんでですか⁉︎」
「このままでいいんじゃないの?」
「それで作れなくもないんですが。凍らせた方が果物も傷みにくいし、冷たいジェラートにした後の口当たりがとってもいいんですよ」
「へぇー?」
フィーさんが関心されたように口笛を吹いた。
という訳で、果物達を瞬間冷凍させることになりました。が、カチンカチンに凍らせるのはいけないので、僕がフィーさんに教わりながらもプチカやフェイをなんとか凍らせました。
一粒食べて、嚙める程度の固さは絶妙です。こう言う技術が僕がいたとこでもあればなぁって思うけど、ないのはしょうがない。
練乳の方も出来てたようで、出来上がったのを小さいボウルに移しておく。ここから普通なら粗熱を取って冷やさなきゃいけないんだけど、時間は限られてるので魔術で瞬間冷却!
「カティアちゃん、ココルル刻めたよー」
「はーい」
では次にメインのジェラート作りだ。
計った生クリームと砂糖を入れて、これを角が立つまでホイップ。ただこれを僕がし続けてたら他が出来ないのでマリウスさんにバトンタッチ。
けども、あの速さじゃ10分もあれば出来そうだから次急がないとね。
「出来た練乳にトナコ(バニラ)のエッセンスを混ぜてー」
あっという間に薄茶になるけど、これで大丈夫。
まさかバニラエッセンスがこの世界にあるとは思わなかったけど、ケーキやムースなんかに使うのがあるからないわけないもんね。
でも、代表格のプリンがないんだよなー。カスタードクリームすらもお目にかからない。クリームはもっぱら生クリームのホイップばっかりなんだよね。美味しいんだけど。
「カティアさん。こちらは出来ましたよ」
「え、はい!」
はやっ⁉︎
もう出来たんだ……でも、ちょうど良かった。これに混ぜなきゃいけないからね。
生クリームの4分の1をもらい、練乳の方に入れてホイッパーで混ぜていき、均していったら残りも全部入れてさっくり混ぜる。そして、ライガーさんが刻んでくれたココルルを加えてふんわりと。
これをバットに入れて均して、冷やせば出来上がり。
「ふむ。これを冷却させるのですか。でしたら、私にやらせてくださいませんか?」
「え、いいんですか?」
「まだ3種類もありますからね。カティアさんはそちらに専念してください」
「ありがとうございます!」
マリウスさんなら、料理長の腕前で美味しく冷凍してくれるだろう。
次は果物のジェラートです。
だけど、全部生クリームや卵を使うと油っこいから、ここはシャーベット状のジェラートを作ることにした。
「撹拌はいいんですが、普通にすると飛び散りそうだなぁ」
「じゃあ、膜を作ればいいんだよ」
任せて、とフィーさんが軽く胸を叩いた。
用意しますは、凍らせた果物達をたっぷり入れた大きめのボウルのみ。
フィーさんは僕の魔術の勉強の為にと、今日は無詠唱せずに教えてくれることになりました。
「膜は光の系統に値する結界の簡易版だと思えばいいよ」
「はい」
「じゃあ、これに何と何を組み合わせるかわかる?」
「え……っと、光と空気でいいんですか?」
「惜しい。今回は風だね」
「どう違うんですか?」
「まあ、見てて」
パチンとフィーさんが指を鳴らすと、目の前に光の球と風の球が出現した。
「これを1つにまとめて、カーテンのように広げる感じかな。時間もないから今日は僕がするね」
「はーい」
魔術講座これにて閉講。はやっ。
とにかく、2つの球をフィーさんが両手で近づけさせてゆっくりと融合させていく。そして、1つになったそれを指パッチンでふんわりとベールのようにひらひらと広げていき、ボウルの上を包んでいく。
見た目何もないように見えるけど、ちょんちょんと触ればプラスチックのような感触の壁がちゃんと出来ていた。
「この中に、いつもの撹拌する時に使う魔術は入れられるからやってごらん?」
「はい。え……っと、縦横無尽に回れ、
呪文を唱えれば、フィーさんが言ったように風の魔術が中で実行された。
ガツンガツンと時折壁にぶつかりながらも凍らせた果物達が撹拌される姿は、さながら福引券のミキシングマシンを思わせるよ。
とりあえずこれをペースト状にして、そこに甘味をプラスしよう。生の果物に加えて水分を出すのもいいんだけど、今日は簡易版にしたのです。
甘味は砂糖じゃなくて蜂蜜にする予定。
どんどん行くよー!
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