ピッツァに嘘はない! 今日は何の日?
櫛田こころ
2016年6月21日〜7月6日頃 夏至で暑くなったからには part1
暑いです。
とにかく、暑いです!
真夏ではないけど、じわじわと暑さが身体に降りかかって
今日は黑の世界でも夏至のようで、陽が1年で1番長い日らしいです。だからかわからないけど湿度と温度がどえらいことになっててぐったり状態。
こうなったからには、身体を奮い立たせるべく逆に動くしかない。
だからって運動ではないですよ?
「って、具体的にどうするの?」
一緒に茹だってたフィーさんはすぐに良い案が思いつかないようだ。
神様と言えども世界の気候には基本手出しができないそうです。でないとフィーさんの我儘でめちゃくちゃになる恐れがあるから、他の世界のお兄様お姉様の神様達と遙か昔取り決めがあったそうな。
たしかに、フィーさんが好き放題に気候変えてたら滅茶苦茶この上ない。
は置いといて。
「薄着はこれ以上出来ませんから、『暑気払い』をするしかありません‼︎」
「しょきばらい?」
「暑さを吹っ飛ばすべく何か冷たいものとかを食べるんですよ!」
「へぇ……良いねぇ!」
まあ、暑気払いはそれだけじゃあないらしけど詳しいことは覚えてないしね。
とりあえずはここに居てもしょうがないので、まずは許可を取るべくエディオスさん達の執務室に向かいます。
「暑さを吹っ飛ばすなぁ……? 具体的にどう言う食いもんがあるんだ?」
今日も今日とて書簡の山と格闘されてるエディオスさんは手を動かしながら僕に聞いてくる。そうしないと、横の席に控えている宰相のセヴィルさんの目が鋭く光っているからだ。お疲れ様です。
「そうですねぇ。単純にはかき氷がいいと思いますが」
「「かき氷?」」
おや、セヴィルさんも珍しく食いついてこられた。興味あるのかも。
「氷はわかるが、『かき』とはどう言うことなんだ?」
「氷を細かく砕くところからそう呼ばれてるようですよ。削った氷の上に果物なんかを使った甘ーいシロップをかけるんです」
洋風にはフラッペとも言うらしいけど、あれはほとんど飲み物だからねぇ。某珈琲店を基盤にコンビニでも流行で広まり、僕も大変お世話になった。作ったことはないけど、久々に飲んでみたいなぁ。
おっと、いけない。今は同じ氷菓子でもかき氷の方だ。
「甘い……か」
ああ、そうでした。セヴィルさんあんまり甘いもの得意じゃないもんね。まずったかなぁと思ったけど、逆に食いついてくる人がいるのも知っている。
「氷にシロップをか……」
「エディ、これはやるっきゃないよね!」
このお2人を忘れていちゃダメですよ。
面白い、美味しいものには目がないお人ですからね。
「ねぇ、カティア。果物ってどう言うの使ってたの?」
「えぇっと、多いのはプチカ(苺)のですが……酸っぱいのでリモニ(レモン)だったり、ちょっと苦味を効かせたお茶を混ぜたものもありましたね?」
「最後の果物関係ねぇじゃん。……まあ、いいや。いいぜ、八つ時に間に合うように作ってくれよ。材料はマリウス達に聞いて分けてもらいな」
「はい。えっと……セヴィルさん酸っぱいのと苦いのでしたらどっちが大丈夫そうです?」
1人だけ除け者は可哀想だもの。
僕が聞くとセヴィルさんは少し考えたようだが、割とすぐに口を開けてくれた。
「……まだ酸っぱい方がいいな」
「わかりましたー」
アナさんは甘いものだったらなんだって大丈夫そうだし、厨房の皆様も暑くて大変だろうからいい機会になるだろうしね。それから調理場伝に中層や下層にも提供出来れば尚良し。
とりま、まずは試作品を作るべくお馴染みの上層調理場へフィーさんと向かいます!
「氷を細かく砕くお菓子ですか? 聞いただけでは想像がつかないですねぇ」
ちょうど手が空いてたマリウスさんに事情を説明すると、どうやら興味を持ってくださったようだ。
想像がつかないイコール、未知なる分野には食いつかなくてはと言うマリウスさんの心情。わかりやすいです。見た目穏やかなナイスミドルっぽいおじ様だけど、いくつになったって探究心は失われないものだ。ましてや料理人。生涯をかけても追求してやまない職業の一つですもの。僕だって料理人の端くれだから同意します。
「しかし、ただ削るだけでは魔術でも容易ですが、それだけでは食べにくくないですか?」
「あ、それには案があるんですよ」
テレビやお店で何回か見てたの覚えてるし、あれインパクトあるからやってみるときっと楽しいと思うんだよね。
氷は魔術で精製するのは決めて、先に冷ましておかなきゃいけないシロップ作りからだ。
「先にプチカのを作りましょう!」
普通は夏にないと思われる苺。だけど、四季苺や夏苺って品種もあるようでこれがこの世界にも需要されてたのだ。ジャムなんかの保存食だけじゃ寂しいもんね。
しかも、今朝摘みたて新鮮のものを大量に使わせてもらえる事になりました!
まずはプチカを水洗いしてフィーさんと2人でヘタとゴミを取ります。これやんないと後で大変だからね。出来上がったプチカに砂糖をふんだんにまぶして1時間程放置プレイ。こうしないと苺の水分が出てこないんだよ。
その間に次なるリモニ(レモン)シロップ作りの下ごしらえです。水洗いしたリモニを半分にカットして種を除いてから果汁絞り機に一回一回かけて、果汁を限界まで絞り出す。
次にお鍋に白ワイン、蜂蜜、砂糖に水を入れたものを火にかけて沸騰させる。ちょいと白い灰汁が出たからこれは除去。なるべく丁寧に作りたいからね。
それから一生懸命絞ったリモニ果汁をこれに加えて火を中火から途中弱火にする。んでもって、根気よくかき混ぜるのです。
「うわぁ……酸っぱい匂いすごっ」
「でも、ちょびっと甘くしてありますし美味しいですよ?」
元はレモネード用に僕が作ってたレシピでだけど応用はきくからね。
これが3分の1くらいまで煮詰まれば完成。自然に冷めるように煮沸したガラス瓶に移せば大丈夫。綺麗なレモンカラーが出来たよ! さて、まだ30分くらいしか経ってないと思うけど苺(プチカ)の具合は……まだ半分くらいしか水分が出てないや。
じゃあ、その間に氷の精製にいきましょう!
「とりあえず、どのくらいの大きさにする?」
「うーん……じゃあ、この鍋くらいの大きさにしましょう」
さっきまで使ってた小鍋サイズ。削るにも大き過ぎる巨大氷からは難しいから、適度な大きさじゃないと大変だしね。
大きさが決まるとフィーさんは無詠唱で3つくらいあっという間に造られた。僕はイメージトレーニングを頑張りつつ2個出来た。
この世界に来てから徐々にだけど、魔法、じゃなくて魔術が使えるようになってきたよ。主に生活用にだけどね。武術関連なんて怖いから出来ない出来ない。
氷達はフィーさんが付与術で溶けないようにしてくれたからそのまま放置で大丈夫。けど、もうちょっと時間が余っちゃった。
「あ、そうです。器探さないと!」
思い出して良かったよ。
けど、ああ言う少し深めの小さい器ってあるのだろうか?
これはいかんとマリウスさんに確認を取りに行く。
「底が少し深めの小さな器ですか? たしかに、あるかわからないかもしれませんね」
聞いといて良かった!
だけど、やっぱりあるか不明ときた。
いや待てよ?
「サラダを入れる銀かガラスの器なら大丈夫じゃないでしょうか?」
「ああ、あれでいいんですか? わかりました、用意しておきますね」
「お願いします」
これで器の方も大丈夫だ。ついでにデザートで使うようなミニスプーンも確保するようお願いしたよ。
さぁて、時間も頃合いになってきたからシロップ作りに戻ろう!
「カティアー、水分すっごい出て来たよー?」
「はーい」
いいタイミングにフィーさんが声をかけてくれた。
僕も隣に立ってプチカを入れておいた鍋を覗き込むと、さっきとは違いドバッと水分が溜まっていた。
これならもう火にかけても大丈夫そうだ。
少し強めに火をかけて、煮立たせるまで少々待つ。その間に玉杓子に空のボウルを準備しておく。何故かって、これから出てくる大量の灰汁を取り除く為なのですよ。
と考えてる間にふつふつと沸騰してきて縁が泡立ってきた。それが鍋一杯に行き渡ると赤い液体に混じって白っぽい泡が出てくる。この灰汁を丁寧に取り、崩れないよう時々かき混ぜる。灰汁もなくなってきて綺麗なルビー色になってきたら火を止める。
仕上げに少し残しておいたリモニ果汁を加えて、これも煮沸したガラス瓶に移しておく。シロップだけにするなら濾さなきゃいけないんだけど、ごろっとしたタイプもあるかき氷。好きに作ればいいもんね。
そしてリモニの瓶と共に冷却の魔術をかけておきます。今から自然に冷ますには無理あるから。
「へぇ。リモニもだけど、こうして見ると綺麗なもんだねぇ?」
「本当はもっと色んな色があるんですよ?」
メロンにオレンジ、パインにマンゴーだったり色鮮やかだと定番のブルーハワイ。でも、かき氷シロップのほとんどは着色料で色付けているから食べ過ぎは体に悪いんだよね。
まあ、それを活かして海外じゃレインボーカラーとかあったりもするらしいけど進んでは食べようとは思わないな。
砂時計の時間を確認するが、まだお八つ時には少し時間がある。せっかくだしもう1種類作ってみようかな?
「フィーさん、まだ時間ありますしもう1種類シロップ作ってみます?」
「うん、作ろー!」
反対する気はさらさらないフィーさんです。
とは言え、限られた時間じゃ火にかけるソース系は作れないから、ミキサーみたいに撹拌して混ぜるだけの方がいいかしらん?
でも蜂蜜だけの甘さじゃ癖あるし砂糖も……ああ、もういいや作っちゃえ! こういう時こそビバ魔術! 使えるものは使わないとね。
とにかく氷室(冷蔵庫)に行って果物を調達しに行く。外は暑いけど、ここは超涼しい! ずっと居ると風邪ひきそうだからダメだけどね。
「どーれにしよう……って、あれ?」
一瞬マロ芋?と思ったけど、芋よりももう少し小振りでもっと濃い茶色い皮をまとった楕円形っぽいものが下の箱にどっさり入っていた。
なんだろうと1個手に取ると独特のざらざらとした手触りが。あれ?と首を傾げていると、
「え、それアルグタだよ?」
「あるぐた?」
「不味くはないけど、酸っぱすぎるし固くて食べ難い果物」
貸してと取り上げられ、フィーさんが魔術を使った刃で半分に割ってくれた。
断面は中心が白くてその周りに黒い種ちゃん。後は全体に緑色。僕がよく知る『キウイ』だよね?
「……これ使いましょう!」
「えぇっ⁉︎ 君セヴィル優先しすぎじゃない⁉︎」
「そ、そうじゃなくて、これもシロップにしたら甘酸っぱくて美味しいんですよ?」
け、決してこ、婚約者優先にしたわけじゃないからね? ち、違うよ? 久しぶりに馴染みある果物をおいしく食べたいという願望とこれが揃えば色合い的に綺麗だと思ったからで。
「えぇー、ほんとー?」
「砂糖で甘くしますから信じてください!」
「……まあ、いいけど」
どうにか『甘さ』でフィーさんを説き伏せて、キウイもといアルグタを5個くらい失敬していきます。
これを作るのはとっても簡単。
皮を剥いて賽の目上にカットしてボウルに入れて、砂糖と水を熱して作ったタレとリモニ果汁少々を加えて魔術で撹拌させるだけです。
「種ごと食べるの⁉︎」
「えぇっ⁉︎ 美味しいですよ?」
「普通取り除くのに君そのまま入れちゃうからぁ‼︎」
「もう、そういう事言う人には」
えいっとスプーンですくったアルグタシロップをフィーさんの口に押し入れる。
んぐって吐き出そうとしかけた彼を、僕はじーっと凝視する。それに観念したのか、フィーさんは飲んでくれました。
すると、
「……え、そんなに酸っぱくない?」
「種と一緒に食べれば中和されるんですよ」
苦手な子は食べようとしないらしいけど、こう言う果物は種ごと食べちゃう方がいいのだ。種子に含まれる成分は油分も多くて甘みもある。具体例は豆類だね。乾き物のナッツやクルミもその代表格。
それに中央の白い花芯だって食べられるのだよ? これが酸味が強いかどうかのサインを教えてくれる重要な箇所だ。
「へぇ、こう言う風にして食べればたしかに悪くないかも」
「器用意できましたよ……って、これは一体なんですか⁉︎」
タイミング良くマリウスさんがやってきてアルグタシロップに引いてしまった。ジェノベーゼ以来の引きつり具合ですね。
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