第1話 崩れ去る日常

「可哀想に……」


街の中私は必死に走っていた。

そして息を荒げ、それでも少しでも早くつく為に足を止めず走る私の姿にぽつりと誰かがそんな声を漏らす。

それは感情が抑え込まれた声だった。

私が可哀想で、それでも貴族に刃向かうことなど出来るはずもない自分達には彼女の手助けをすることなど出来なくて。

情けなさと、そして私に対する憐れみが篭ったそんな声。

その声を耳にして、私は声の主に大丈夫だと笑いかけたい衝動に駆られる。


その気持ちだけで私は嬉しいのだと。

全く私は辛くなくて、だからそんなことを思う必要はないのだと。


だが、今の必死に走る私にそんなことを言えるはずがなかった。


せめて私は村の人の目に入らないよう身を縮めて全力で走る。

本当に気を遣わないでほしいとそう全身で訴えながら私は走る。

全く自分は苦しくないから。


というか、そこまで憐れまれたら逆に心が痛いから!


多分2時間後には村での買い物を終えていますんで!

いや、それどころかこっそりとおまけに貰った干し肉とパンを手に持って友人と一緒に草原で遊んでますから!


………そんな私の声はもちろん村人に聞こえるはずがなく、私はちくちくと痛む胸を庇いながら走って行く。






◇◆◇






継母とエイシアの嫌がらせ。

その理由など私には全く分からない。

なんでそんなことをするのか、どうしてそんなことをしようと思えるのか。

そんなこと一切想像できない。

だけど、そんな私にもこれだけは断言できる。


ーーー 嫌がらせ、ワンパターンすぎます。


7歳の頃から16歳になる、9年間ずっと嫌がらせを受けた結果、嫌がらせに対する対処法を私が身につけていることを未だ2人とも知らない………


思い出されるのは最初母親を亡くし、意思消沈していた時に突然嫌がらせが始まった時のこと。

その時から突然私は急に雑用をやらされるようになった。

それも、召使いなど比にならない忙しさで。

隣村まで半日で行かされたうえに、へとへとになって帰ってきたらご飯は抜きで。

さらに掃除も少しでも汚れが溜まっていたらやり直し。

料理に関してだけは少し味見と称してご飯を食べらるのが嬉しくて、厨房の仕事を降ろされないように必死に働いた。

だが日々の楽しみはそれだけだった。

睡眠時間は削られ、いつもぼろぼろで。

それでも少しでも気を抜いていたらさらに仕事を増やされて。


その時は本当に地獄だった。

何度死のうと思っただろうか。


父親も私に話しかけることはなくなり唯一優しかった母親はもういない。

それは本当に子供には辛すぎる対応だった。

間違っても、7歳の子供にする対応ではない。


だがそれでも一年間ずっと働かされていたらなれる。


しかも数年たつとその時にはサボり方はどんどん大胆に。

今では掃除の時間の最初の10分程度で、見た目だけは綺麗にできるよう掃除して後は寝ている。

なので夜寝る時間はは相変わらず少ないが、睡眠時間は10時間を超えている。

そのせいかなんか日々お肌が艶々になってきた気がする!


「少しぐらい美しくたってその貧相な身体は変わりませんわね!」


そのせいか、この頃よくセイシアにそんな嫌味を受けるんだが寝ていることにバレているのだろうか……

でも寝ていることに関しては注意受けないし……

というか、それよりも貧相な身体はひどい!

今はまだ成長過程だ!寝れば寝るほど私の身体は成長していくもん!


………ちゃんと成長するよね。


ま、まぁ、そんなことはいい。

そして次に大胆な行動を取るようになっていったのは厨房だった。

最初は少しづつ摘み食いを増やすだけだったのだが……

この頃は大量に作って半分くらい食べてます。


「貴女、料理だけは出来ますのね。まぁ、それ以外に脳がないとも言えますが!オーホッホッホ!」


とか、継母が言っていたが……

すまないマザー……実は貴女達が食べているのは私が作って美味しくなかった方なんだ……

美味しい方は私が責任を持ってきちんといただいております!


そして時々作りすぎた時にはメイドさんや執事さん達にお裾分けしている。

そのお陰で私はどれだけ影でサボっていたってその報告が継母に行くとはない。

当の継母に関しても、目の前だけ悲しそうに俯いていたらそれだけで騙されてくれる。

ちょろい。本当にちょろい。


「私、今日は掃除したくなくて……」


そう目の前でアピールするだけで目を爛々と光らせて睡眠じか………掃除の時間を増やしてくれる。

まじちょろい。

というか、この頃私は実は継母は私のことが好きなのではないかと思っている。

いや、多分そうに違いない!


だが、そんな中唯一変わることなく常に私の心にのし掛かっていたのが隣村への出張だった。

それだけはどうやってもしんどくて、そのお陰で身体は丈夫になったが、それでも苦しいことは変わらない。

そして等々耐えかねた私は、近道を使った。

隣村までの距離、それは決して遠くはない。

だがそれでも何故そんなにかかるというと、それは川や森のせいで大きく迂回しなければならないからだ。

数年前の私は川は無理だが、森を一直線に通って行こうとして、そして直ぐに魔獣に囲まれることもなった。

簡単なことだ。

川と違い、比較てきに通りやすい森を人々が迂回していたのはちゃんと理由があったのだ。

そう、森が魔獣の群生地であるという。

魔獣というのは命を持たない人間の天敵。

魔力と呼ばれる摩訶不思議な力が淀んだことで現れる、通常の獣など比にならない力を持つそんな存在。

そして森の中が群生地であることなど知らなかった私はあっさりとその魔獣達に囲まれて、その時に出会ったのだ。


紅い、燃える炎のように紅い身体と、そして魔獣さえも一撃で葬り去る強力な魔術を扱うことのできる幻獣、フェニックスで、


ーーー そして、現在は私の大切な友人となっている彼に。


フェリルと名付けたフェニックスと友人になった私はその森をなんの躊躇なく横断することができるようになり、さらにはその余った時間で私は新たな友人と一緒に遊ぶようになった。


「あぁ!気持ちいい風!」


「クルッ!」


そして今回も私は、村での買い物を終えたことを示す荷物と、おじさんにおまけで貰った干し肉とパンを手に、草原の中伸びをしていた………

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