俺はまだ目覚めてないだけ
大葉感(オバカン)
第1話眠い
「お兄ちゃん、ごはんできたけど」
俺は目を覚ました。目覚めてんじゃん。いや、こういう日々の目覚めじゃなくてね。
「またゼリーリザードか。お前もいい加減生食以外の料理覚えろよ。じゃなきゃ、お前は目覚めてるからまだマシだけど、結局俺と同じような生活になるぞ」
「うん……そうだね。なかなか炎のスペルが難しいんだよなあ」
「まっ俺にはその難しさすらわからんのだけどね」
「お兄ちゃんは目覚めてないだけだから。目覚めたら、お兄ちゃんは頭もいいし、スペルなんてすぐ覚えちゃうよ」
「まあその自信が無いとは言わないけど、目覚めないまま老人になっちまったらなあ」
「お兄ちゃんそればっかり。神様に祈るとか、少しくらいしなよ」
「まあねえ。世界がみんなスペルみたいな理屈でできてるわけじゃないからなあ」
俺が家を出てから一年で弟がついてきた。正直一人で生きるのはつらかった。老人に配給される列に並んで穀物を恵んでもらい、塩スープを舐めて過ごした。弟は15歳で成人したころにちょうど魔法に目覚めて、父親の指導を受けながら初歩のスペルは一通り覚えたくらいで俺の世話をしに来たから、世間並よりは能力が低い。だからといって実家に送り返すほどには俺に余裕がなかった。というわけで弟に甘えている。
他の民族は俺たちのことをリザード・トリと呼ぶ。リザードが好物でリザードばかり食べているからであり、また、リザードは他の民族の舌には全く合わないものだから、そこを強調されているわけだ。リザードおいしいです、おいしいです。
俺たちの住む界隈はリザードで溢れているようなもので、捕まって食われるのはよほど運の悪かったリザードだ。ゼリーリザードを食べるにはバケツを持っていってすくってやれば済む。スペル上級者はレアなリザードを罠にかけたり、わざわざ遠出して山に棲む凶悪なリザードを飼ってきたりして、グルメぶって食らっている。
歴史の古い石造りの遺跡に住む俺たちは、衣食住のうち、衣以外は、もう揃っている。なので皆の興味は着るものに向かう。髪型からピアス、トップスにボトム、何やかやにファッションがあり、生活に余裕のある者たちはこぞって流行の最先端の次を目指す。結果多くのものが奇抜すぎる服装をまとっており、俺のように何も工夫のない格好をしていると目立つ。街中で「あんたの服、すげえな。」と言われたことがある。真意は不明である。
リザード、狩りたいです。。。話を聞くと楽しそうなんだもの。だけど俺はゼリーリザードすら狩れない。バケツを持って行ってもリザードを固める氷のスペルを知らないから、相手が地面に広がったら救いようがない。
救いようがない?俺のことか?
たまにいるらしい。スペルを扱う能力が衰える老人になるまで、我ら民族(つまりリザード・トリ)の血統に備わった魔法の力が目覚めない者が。つまり一生生活保護みたいなもんやね。
ああ、筆者が暗い気分になった。今日はこれでおしまい
俺はまだ目覚めてないだけ 大葉感(オバカン) @obacan
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