支配者 4
島に降り立ったのは、ラヴロフと戦った部屋にいたすべての人間たちだった。一人も欠けることなく惑星のシリンたちが転移させていた。
彼らは、一回に一つだけ放たれるゴーレムの光線を避けながら、輝や町子、アーサーたちに、道を作っていった。輝は刀を構えて一直線にゴーレムに向かった。
「同時攻撃の必要はなさそうよ!」
一度、ゴーレムの中に入ってデータを探っていたカリーヌが、輝たちに叫ぶ。輝やアーサーは頷いて、それを受けた。しかし、町子だけが元気を失っていて、誰が何を言おうとも、頑として矛を振り上げることがなかった。
そんな町子がとぼとぼと歩いていると、彼女を守るように前に出てきたアニラが、町子の足を止めた。
「この先は戦闘エリアです。今のあなたには入ることができません」
それを聞いて、町子はアニラから目を逸らした。
「そうだね、私は足手まとい。二回もみんなを危険にさらして」
そんな町子のセリフに、アニラは怒ることなく、真剣な顔をして町子の頬を叩いた。先程実花に叩かれている町子はその程度で動じることがなかった。だが、めったにこう言ったことをしたことがないアニラが町子の頬を叩いたのには、意味があった。
「あなたがそんなことでは、ケンさんは救えません。いま、あなた以上に苦しんでいるのは彼です。自分がゴーレムを止められないおかげに、コアになってしまっているおかげに皆を危険にさらしている。それを見ているだけで何もできない彼の気持ちがあなたには分かるはずです。それが分からないなら、武器をお捨てなさい。できるなら、皆の中に入ってケンさんを救い出してください」
「でも、この矛は私にはふさわしくない」
「そんなことは、今は関係ないでしょう。実花さんが先程言った通り、あなたの在り方や考え方は、いまはどうでもいい。やるべきことをやってください。そのあと、あなたの伯父様なり輝さんなり、皆に相談するべきことではないですか。あなたに武器を与えたクチャナさんの気持ちも考えなさい」
それでも、町子の心にはまだ、迷いがあった。目の前で戦っている輝たちの力になりたい。でも、この矛を持つ資格が自分にあるのか。そんな町子を見て、アニラの態度が凍った。怒りは感じないが、あきらめを含んだ態度だった。
「あなたのように、自分のなすことを見失い、他のことにかまけている怠け者のことを、放逸と言います」
アニラは、動こうとしない町子の迷いを見抜き、こう言い放った。
「その放逸に耽る物は、誰も、何も救えない。あなたが救いたかった過去のあなた、あなたの妹、そして、輝さんの傷ついた心。ケンさんだけではなく、それらもすべて見放すのですか? それができるほどあなたが怠けているのなら、その矛はすべてを裏切りとみなして消滅するでしょう。それが風の刻印を持つ巫女、クチャナさんにどれだけのダメージを与えることになるか、あなたはご存知でしょう?」
それを聞いて、町子の心が揺れた。確かに今の自分は怠けている。戦いが嫌で怠けているのではない。矛を持つ人間として相応しいのか分からなくなって、足踏みをしてしまっていた。結果、その悩みに甘えてしまっていたのだ。
「アニラさん」
町子は、矛を持つ手に力を入れた。
矛はまだ健在で、消えかかってもいなかったし、重くなって持てなくなってもいなかった。まだ、町子を持ち主として認識してくれている。
「迷いは誰にでもありますよね。この矛が私の迷いを受け入れてくれたなら、それが答えですよね」
アニラは、何も言わずに頷いた。その瞳には、希望が戻っていた。
「アニラさん、私、行きます。迷いは振り切れません。でも、今の私のするべきことが見えている限りは」
町子は、そう言って、地面を蹴った。そして、今なお戦っている皆の中に入っていった。
アニラはその姿を見て、そっと、呟いた。
「内山牧師、いえ、ベンさん、あなたがここでふうちゃんの意識を拾ってくれたからできました。これでいいのですね、ふうちゃん」
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