理想と現実 5

 ナギが裏切り、エルザが倒れた。

 その報せを受けたヴァルトルートは、表情一つ変えずに、エルザの救出を人工シリンに命令した。

 あれは行動が軽率だ。今回ナギを連れてきたことは評価するが、そのナギは簡単に裏切ってしまった。そもそも、仲間ですらなかったかもしれない。

 ヴァルトルートは、自分のいた席を離れて迷路のような要塞内をすらすらと歩き、ある部屋にたどり着いた。そして、その大きな部屋のライトのレバーを一つずつ降ろすと、端のほうから部屋の中に明かりがともっていった。

 そこは部屋というよりは大きな倉庫になっていて、そこには巨大な土偶のようなものが五体、収容されていた。どれも無機質な黒い色をしていた。

「エルザはもう使い物にならない」

 ヴァルトルートは、そう呟いて土偶たちを見上げた。その巨体の周りはシリン封じの金属で出来ている。そう簡単には彼らの手には落ちないだろう。

「行きなさい、私のかわいいゴーレムたち」

 そう言って、ヴァルトルートはにやりと笑って、自分の持っていた鍵を、ゴーレムの部屋の中にある鍵穴に刺していった。すると、ゴーレムがふわりと浮き上がり、その巨体の下に青い円を従えて、瞬時に消えていった。

「ワープ能力、シリン封じ、そして、強力なコア、あなたたちにこれが破れるかしら?」

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