夢を紡ぐ者 6

 夢を紡ぐ者。

 その能力が試されるときが来た。

 美沙と佳樹、そして両親が見送る中、実花は人生で初めて国際便の飛行機に乗り込んだ。そして、指定された席に着くと、隣に座った町子に見守られる中、両手であやとりのような動作をしだした。それは酷く複雑で、きれいな糸を紡いでいるような動きだった。

「すごい、本当に糸がそこにあるみたい」

 町子が感激の声を上げると、実花は恥ずかしそうにしながらそれを続けた。

「何を紡いでいるの? このフライトの無事?」

 町子が問うと、実花は黙って糸を紡ぎながら首を横に振った。そして、ひとしきり紡ぎ終わると、町子のほうを向いてこう言った。

「私の両親と、櫻井さんと平沢さんが、一緒に英国で暮らしている夢です。確実にそれが叶うように、私も頑張って皆さんを助けていかなければ」

 実花は、笑った。

 そして、大きく息を吸って吐くと、飛行機の窓から見える外の景色をずっと眺めていた。ヨーロッパの空港に向かうこの便は一度乗り換えをしてから英国に着く。ロシアのほうから回っていくので、延々と続く山脈や平原、まっすぐ走るシベリア鉄道などがはっきりと見えた。

「こんな高いところを飛んでいても、ほんの一部しか見えていない」

 実花は、そう呟くと、ふと、アースを見た。いま、ちょうど輝に勉強を教えているところだった。地球は大きい。自分たち人類がどれだけ小さいのか、それを痛感せずにはいられなかった。そんな大きな地球の情報を余すところなくすべて拾い集めて因果律の外に生まれた存在、地球のシリン。どれだけの重荷を抱えているのだろう。

 それを考えた実花は、アースから目を戻すと、再び、窓の外を見た。

 そして、町子にも聞こえるような声で、こう言った。

「地球は、大きいね。私たちが想像するより、ずっと」

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