大地への伝言 3
輝が襲われて瀕死の重傷を負った。
その知らせを町子が聞いたのは、自分が寝る直前のことだった。
輝としばらく距離を置くために、新しい屋敷のメリッサの部屋に泊まっていた。そこへ、フォーラが駆け込んできたのだ。
町子は、それを聞いて気を失った。
ケンから、マインド・コントロールの解除をしてもらった、その直後だった。町子は気が付いても、足腰が立たない状態だった。がくがくと身体じゅうを震わせて、顔を手で覆って嘆く。何一つ言葉が出ない状態で、周りが見ていて痛々しく感じるほどだった。
町子は、クチャナに背負われて、フォーラに励まされながら、古い屋敷のほうへ向かった。アースは輝の部屋を使ってそこで彼を診ていた。今は、傷の縫合手術をしているから、助手であるモリモトやエル以外は部屋に入れなかった。
フォーラとクチャナは、輝の部屋の前に行くと、そこへ集まっている屋敷の人間たちが道を開けてくれたので、すんなりと部屋の前に行くことができた。そこへ椅子を持ってきて、まだ落ち着かない町子を座らせる。背中をさすったり、手を握ってやったりして、懸命に励ます。その姿を見て、周りにいた人間たちも町子を励ましていた。
「町子、執刀しているのはアースだ。輝は助かる」
町子の背に合わせるように屈んで、セインが励ましてくる。町子は、しゃくりあげながら自分の顔から手を離した。
「でも私、輝を傷つけたままなんだよ。輝がまだ傷ついていたら、いくら伯父さんの腕がよくたって、助からないかもしれない」
町子はどこまでも後ろ向きになっていた。それは、誰もが予想している答えだった。
「あの時と同じだ」
シリウスが、何も見えない、何も聞こえないドアの向こうを見るようにして、呟いた。
「アースが瀕死の重傷を負った時があった。あの時も、あいつは、自分が助けた原住民たちに傷つけられていた。なあ、町子」
シリウスがこちらを向いたので、町子は、顔を上げてシリウスを見た。
「俺たちがあの時あいつを信じて待っていたように、お前も輝を信じてやれよ」
その言葉に、町子は何も言わずに俯いた。輝は、アースほど強い人間だろうか。暁の星で助けた人間たちに裏切られた伯父が、それでも助かったのは、飛びぬけて強かったからなのではないか。だったら、普通の高校生程度のメンタルしか持っていない輝に、同じことができるだろうか。
「町子、君は今すごく後ろ向きになっているね」
一緒についてきたケンが、町子の肩に手を乗せた。優しく微笑んで、町子を抱きしめる。
「こんな状況なら、誰もがこうなるさ。君だけが、悩むことじゃない。皆が同じように、悩んでいるんだ。先生も」
そう言って、ケンは輝の部屋のドアを見た。少し、悔しそうな顔をしている。
「先生も、今回は輝君の救助が遅れたことを気にしていた。もっと早く気が付いていれば、僕だったらそう思って自分を責める。でも、先生はきっとそんなことはしない。悔いるくらいなら、そのベクトルを救助に向けて、できるだけ確実に輝君を助ける。そう考えるはずだ」
「でも、それは伯父さんが強いから」
町子の声は小さかった。呟くような声で言葉を放つので、他の人間は聞き取りにくかった。その中で、人ごみをかき分けて、瞳がなつを連れて町子の前に現れた。
「地球のシリンだけが特別に強いわけでないのよ、町子さん。あなたも、輝さんも、アースのようになれる。彼は目標にするには最適なんですよ。ね、なつ」
なつは、瞳に名を呼ばれると、町子のほうへ行って膝をつき、その頬に触れた。止めどもなく流れてくる涙を拭いてやると、町子が落ち着くのを待って、額を町子の額にくっつけた。
「町子、あなたの嘆きが分かる。輝の苦しみや痛みが伝わってくる。こうしていると、分かるよ」
なつは、そっと町子から離れた。そして、町子をぎゅっと抱いた。
「私たちは、あなたを信じているよ」
その言葉に、町子は泣いた。
その時だった。
輝の部屋のドアが開いた。
アースが出てきて、中にいる二人に何かを指示していた。それを見て、皆がドキリとした。アースは手術着に着替えていた。血のり一つついていないのは、中で着ていた服や手袋を脱いだからだろう。アースは、エルやモリモトへの指示を終えると、扉を閉めた。そして、外にいた全員と町子を見渡して、こう言った。
「輝は助かった。だが、油断はできない。芳江さん、町子、中に入って輝を助けてやってくれ」
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