託されたもの 4

 町子の部屋は輝の隣だ。

 学校が終わって、ミシェル先生の出す難しい宿題をメルヴィンたちと終えた後、夕食までの時間、輝と町子はみっちりと練習に励むことになった。輝はさらに夕食の後、寝る前までずっとトレーニングをしていた。アーサーが来てからというもの、輝はアーサーと競うように自分を鍛えることに熱心になっていた。また、町子も、筋肉痛と戦いながらトレーニングに励んでいた。クチャナの指導は思ったよりも優しかったが、町子はそれに甘えることがなかった。少しでも早く皆と同じレベルになりたい、そんな思いが町子を突き動かしていた。

 クチャナは練習の合間や休日につけて、町子に休みをくれた。根詰めていて、いい結果は得られないからだ。きっちり練習をしたら次の時間はショッピングをしたり、お茶を飲んだりして気分転換をした。身体もきっちり休めてメリハリをつけることで、より早く槍術を会得できるように工夫していた。輝やアーサーたちも同じようで、皆でお茶を飲んだり買い物に行ったりすることもあった。

 町に出て、町子はいろいろなところを見て回った。輝やアーサー、それに伯父も一緒になって町子とクチャナ、それにクエナと行動するものだから、まるで団体行動をしているようだった。

「少し、別れて行動しないか? 待ち合わせ場所を決めて」

 提案をしたのは、クチャナだった。皆はそれに賛成して、三人一組の計二組で行動することにした。あまりバラバラに分かれると、行く場所がバラバラになりすぎるからだ。町子は久しぶりに伯父といたかったので、町子はクチャナとアース、輝はアーサーとクエナとともに行動することにした。クエナはあれでしっかりしているから、男二人をうまく引っ張っていってくれるだろう。町子はそう感じた。輝と町子はそれぞれいったん別れると、ロンドン市街にある人形店の前で待ち合わせをすることにした。

 町子は、クチャナと行動するのが最近とても楽しくなってきていたし、伯父とは久しぶりに一緒にいることができるし、楽しみでいっぱいだった。

 三人は、まず、クチャナが日常的に着る服を買いに行った。

「クチャナさんは細身ですけど、結構しっかりとした体つきですから、今までポンチョでごまかしていたところがはっきり出ちゃいますね」

 町子は、クチャナの服を選んでいた。クチャナは何でもいいといったが、町子は納得しなかった。

「クチャナさん、スーツは何着かあるんですけど、洋服は持っていないですよね。それじゃダメです。この国で生活するためには洋服の一着も持っていないと!」

 そう言って、町子は一着のブラウスと白いジーンズを持ち出した。ブラウスは、黒と茶色のストライプが入っていて、色は、わずかにそれとわかるくらいのベージュだった。

「試着してください。あと、伯父さんも」

 町子は、そう言って伯父のスタイルを見た。いつも同じようなものばかりを着ている。毎日違うものではあるが、デザインが統一されすぎていて新鮮さがない。

 町子は、すかさず青いストライプの入った白いブラウスにサマーセーターを組み合わせ、紺のボトムスと一緒に差し出して試着を促した。

「なんで俺が」

 そう言いながら町子に押されて試着室に入る。すると、先にクチャナが出てきた。

「町子、これでいいのか?」

 クチャナはそのスタイルが非常に似合っていた。最近、長い髪を切ってセミロングにしていたので、より活発な感じが出ていて素敵だった。

「クチャナさん、それ着て帰りましょう!」

 町子は、目を輝かせた。次いで、アースが出てきた。

 すると、先程着ていたものよりずっと若くなって見えたので、町子はうれしくなってしまった。これはもうどこかの大学の学生レベルで若い。

「伯父さんも、これ着て帰ろう! 二人ともあと一着はいるね。それ見繕ったらお茶しよ!」

 町子はノリノリだった。町子に新しい服を着せられた二人は、町行く人の視線を受けながら、カフェに向かった。

 一方、輝のほうは、最初からカフェに向かっていた、アーサーは紅茶に飽きたからコーヒーが飲みたいと言い出すし、クエナはクエナで、コーヒーの産地に住んでいるにもかかわらず飲んだことがないと言っていたからだ。

 カフェに着くと、三人は思い思いの飲み物を注文した。クエナはケーキが食べたいといっていたので、ケーキも三人分注文した。

「シフォンケーキは屋敷ではあまり焼かないので、新鮮です」

 ケーキが来ると、クエナは食べながら、まだ熱いコーヒーを口にした。

「苦くないか?」

 輝とアーサーが口をそろえて聞くと、クエナは笑って首を振った。

「美味しいです。今度は、ペルー産のコーヒーを飲んでみたいです。もしそれがなかったら、コスタリカあたりでも良いので」

「あくまで南米か」

 アーサーは、そう言って笑った。

「この店にはないみたいだから、また探しておいてあげよう」

 そうして、三人は店を出た。シフォンケーキでおなかがたまったので少し歩いたほうがいい、そういうことになって、大英博物館まで歩くことになった。しかし、博物館の中にはアーサーもクエナも入りたがらなかった。

「私たちには、見るに堪えない遺産もあるのです」

 そう言って、クエナは踵を返した。

「大英博物館は、私もあまり好きじゃないんだ」

 アーサーも、そう言って踵を返した。そのあと町子たちと合流するために、町の中心街辺りにある人形店に向かった。

 すると、そこに見慣れない人間たちが待っていた。それが、アースとクチャナであることに気が付くまで、輝たちはだいぶ時間がかかってしまった。

「おじさんが、さらにおじさんに見えない」

 輝の頭は混乱していた。目が回りそうだった。

「お姉さまが、お姉さま過ぎてかっこいい」

 クエナが瞳を輝かせて、クチャナを上から下までよく見た。

 六人は、そうやって貴重な休日を楽しく過ごした。

 そして、次の日からはまた猛特訓が始まった。

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