死を呼ぶ指輪 2

 輝たちが学校に復帰するようになると、いくつかの変化が輝たちの周りに出始めた。屋敷に住むメンバーは変わってはいないが、午後、輝たちが学校から帰ってくるときのメンバーが代わっていた。輝や町子、友子と朝美のほかに、メルヴィンが加わったのだ。

 男一人でいづらかった輝にはありがたかったし、正直ひとりで抱え込んでいた問題も多かったので、メルヴィンに話せることが何よりもうれしかった。 

 そして、学校から帰ると、屋敷にいる天使と悪魔の雰囲気も変わっていた。アイラはセインやクリスフォード博士のいるスコットランドに帰ってしまったが、その代わりにお茶の席にはメルヴィンが加わることになった。メルヴィンが加われば、自然と輝や町子たちも席に着くことになり、お茶会は賑やかなものになっていった。ミシェル先生の出す、きつい宿題もそこで三人で知恵や知識を絞りながらやっていたので苦にはならなかった。

「メルヴィン、俺さ」

 輝は、ある日、メルヴィンに相談を持ち掛けた。宿題を終え、夕食の準備が始まるころだった。メルヴィンは家に帰ろうとしていたところを呼び止められ、きょとんとした表情を見せた。

「どうしたんだい、輝」

 輝は、そう言われると、少し照れたように頭をぼりぼりと掻いた。

「何でもない。ごめん、呼び止めて」

 すると、メルヴィンは輝の顔を突然のぞき込んできて、にやりと笑った。

「輝、あまり心配するなよ! また何かあったら相談してくれよ。僕が力になれることだったら、いくらでもなるからさ!」

 うん、と、輝は答えて、その日はメルヴィンと別れた。

 入れ違いに、アースとフォーラが往診から帰ってきた。相変わらず忙しそうだ。二人で何かを話し合いながら部屋へと戻っていった。しばらくして、アースだけが出てきて、輝のほうに来た。

「輝、抱え込んでいないか?」

 そう言って、輝の顔を両手で包み込む。メルヴィンも、同じようなことを言っていた。

「そんな顔、しています?」

 そのまま答えると、アースは輝の顔から手を離した。

「している」

 そう言って、アースは輝の隣に座った。町子が正面で心配そうに輝を見た。悪魔や天使たちはすでに自室に入っていて、ここには輝と町子しかいなかった。

「輝、そう言えばさっきもメルヴィンに何か言いかけたよね。何だったの?」

 町子が心配そうに聞いてきた。輝は、うつむいて膝の上で手を組んだ。

「今は、地球上のシリン皆を、シリンとして認識できないように、おじさんがブロックをかけて守ってくれていますよね。それに、事あるごとに何かを解決するのにおじさんは必ず関わってきています。このままおじさんに頼り続けていたら、俺たち、強くなれない。いざって時に、メルヴィンや母さんたちを守る力がついていかないんじゃないかって、そう思うんです」

 すると、アースは輝の言葉を汲んで、優しく笑ってくれた。

「輝、そのことは気にしなくていい。地球のシリンとして生まれた以上、この星と、この星の生き物を守っていくのは運命なんだ。それに、何の負担にもなっていないし抱え込んでもいない。気にしなくていい」

「でも、それじゃあ、俺たち、強くなれません。たしかに、寝る前に少しずつ、俺はおじさんに稽古をつけてもらっています。でも、それだけじゃ足りないんです」

「実践を、積みたいと?」

 輝は、頷いた。

「メルヴィンや、皆を守るために」

 すると、アースは少し寂しげに笑った。

「一昨日、マルスから無理やり記憶を取り戻したんだが、あれは、キツかったな」

 突然、何の脈絡もなく輝の知らない話が出たので、輝も町子も訳が分からず、目を見合わせた。

「この間、実際にお前は戦った。その中で、お前の戻す力は、人工シリンを普通の人間に戻すことができるということが分かった」

 輝は、頷いた。

「はい。でも、大人数で来られたら、あの通りです」

 頭を垂れたままの輝の頭を、アースはポン、と叩いた。そして、肩に手を当てると、輝は顔を上げた。

「少しずつ、強くなっていけばいい。ひとは、急には強くなれない」

 そう言って、アースは立ち上がった。そして、輝と町子の二人の背中を優しく叩いて、部屋に戻っていった。

 輝は、まだ納得いかないところもあったが、少し、気が楽になった気がした。町子が隣で、少し考え事をしていたが、それもすぐにやめて、輝を促して立ち上がった。

「確かにみんな、伯父さんに頼りすぎかもね。でも、それ伯母さんも気が付いていると思うから。大丈夫よ、輝」

 そう言って、町子は先に自室へと戻っていった。

 次第に暗くなっていくロビーには、淡い明かりがともっていた。輝はそこにしばらくいて考え事をしていたが、すぐに自室へと戻っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る