滑空する夢 9

 戦闘が大体収束したその頃、町子たちは、廊下を逃げまどっているルフィナたちと合流した。ルフィナは、町子の姿を見るとすぐに走り寄ってきて、抱きついてきた。

「町子さん、お会いできてよかったわ!」

 マルコがそのあとから走ってきて、一緒にいたクチャナやフォーラと抱き合った。

「皆さんが来ていると聞いて、気が気でなりませんでした。ご無事でよかった」

「それはこっちのセリフよ」

 町子は、涙を流しながら言った。作戦はほぼ成功した。あとは皆にこのことを伝えて撤収するだけだ。今ならここにクチャナがいる。ルフィナたちを守りながら皆と一緒に撤収する算段はついていた。

「じゃあ、行きましょう。早く出なければ、また追手が付きますから」

 町子がそう言い、ルフィナの手を取った。

 その時だった。

「救出隊の諸君!」

 それは、この建物全体を覆う、館内放送だった。そこらじゅうのスピーカーから聞こえてくる。その声を聞いたとき、ルフィナが震え始めた。

「カルメーロ」

 そう言って、マルコの手を取った。いったい何があったのだろう。館内は騒然とした。

 カルメーロの声は続ける。

「救出隊の諸君、聞こえているかね? 君たちに朗報だ。君たちの仲間である、ある少年を、我々は確保した。高橋輝という少年だ! 聞き覚えがあるだろう? そこで取引だ。この少年と引き換えに、ルフィナを私のもとへ戻してもらおう。もちろん、ルフィナ、お前は一人で来るんだ。他の連中を、間違っても一緒によこすんじゃないぞ。マルコも一緒に来い。良いものを見せてやろう」

 その放送を聞いて、町子は歯を食いしばった。フォーラが大丈夫かと聞いて肩に手を当ててくる。町子は、その言葉に頷いた。

「カルメーロはそういう奴よね。だから息子のアントニオさえ見限った。大丈夫、私は輝を信じてる。輝なら、おとなしくあんな奴の言いなりにはならないはずだから」

 その言葉に、フォーラは少し驚いた。

「町子ちゃん、あなた、強くなったわね」

 そう言って、フォーラは町子に笑いかけた。そして、ルフィナとマルコのほうを向いて、二人をぎゅっと抱きしめた。

「二人とも、輝を信じて。カルメーロには決して渡さないし、行かなくてもいい。輝は、あなたたちが行くまでは無事だと思うから」

 そう言うと、他のメンバーと合流するためにここを動こう、そう提案した。

 皆は、それを呑むと、階下へ向かって走り始めた。すると、廊下の途中でアースにばったり会った。彼は、ちょうどすべての人工シリンを片付けた後だった。

「輝のことは俺に任せて、早く行け。ナギやマルスがまだ残っている」

 少しも疲れた様子を見せないアースに驚きながらも、フォーラに押されて町子たちは走った。フォーラは、アースに目配せをした。もしかして、アースは輝に対して特殊な手段を使って助けるつもりなのかもしれない。地球のシリンとして、最も有効な手段で。

 フォーラはそれを確かめると、町子たちの後ろを守るように走っていった。

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