滑空する夢 7
部屋を出たアントニオは、まっすぐに、ルフィナが閉じ込められている部屋に向かった。
このまま彼女を月の箱舟に渡してしまったら、厄介なことになる。それに、今のアントニオには、彼女の幸せを願う以外に何も考えられなかった。
アントニオは、ルフィナの部屋に着くと、まず真っ先に彼女のもとへ行って、自分の持っている鍵を使って彼女の足かせを外し、手を縛っているロープを外した。そして、彼女を連れて外に出ると、見張りをしている人間にこう言った。
「ルフィナを父がご所望だから、連れて行く」
そう言って、とりあえず父の入る指令室のほうに向かう。ルフィナは嫌がってもがいたが、途中でアントニオはルフィナに、父のところじゃなくマルコのところへ行くと漏らしたため、おとなしくついてくるようになった。
アントニオは通路を迂回して、マルコが閉じ込められている部屋へ急いだ。そして、マルコのもとへ着くと、自分の持っているナイフと部屋のカギをルフィナに渡した。
「僕にできるのはここまでだ。父に見つからないうちに、僕は逃げる。君も、マルコと一緒にうまく逃げおおせてくれ。これは、この建物の地図だ。いいね」
そう言って、この要塞の地図を渡すと、アントニオはルフィナのもとから去っていった。その後のルフィナとマルコの行方は、アントニオには分からなかった。ただ、うまく逃げてくれているといい。それだけが彼の希望だった。
気を失っていたアントニオが、目を覚まして事の顛末をしゃべると、アントニオを無事に脱出させるために、アイリーンがアントニオについて入り口まで護衛しながら送り出すことにした。アントニオは、しきりにマルコとルフィナのことを気にしていたが、クチャナのこの言葉で脱出を決意した。
「アントニオ、お前の気持ちもわかるが、ここでお前が捕まればこちらの戦力がそがれる恐れがある。マルコたちも逃げられなくなるだろう。足手まといになるならいないほうがましだ」
アントニオは、自分が強くないことを誰よりも分かっていた。だからこそ、逃げることを決意できていたのだ。
アントニオがアイリーンとともに階下へ向かうと、輝たちはそのままホールを抜けて、先へ続く階段を上った。外から見れば四階建てのこの建物も、中はどうなっているのか分からない。慎重に進んでいた。
しばらく進むと、目の前が突然暗くなったのが分かった。後ろに巨大な壁が立ちふさがっているような、そんな感じだった。
だが、突然今まで来た場所に壁が現れるなど、ありえないことだった。全員が後ろを振り返ると、そこには巨大な、機械の人形が立っていた。その人形は、大振りに腕を振り上げると、輝たちのほうにその拳を振り下ろしてきた。輝たちは、何とかその一撃をかわした。
「自律型の、ヒト型機械だわ。こんなものまで!」
フォーラは、そう言いながら、今度は自分のほうに降りてきた拳をよけた。
そのヒト型機械は、行く先にも一台いた。壁にぴったりくっつく大きさなので、よけることが難しい。しかも、そのヒト型機械の攻撃をよけるたびに、輝たちは後ろへ、後ろへ、つまりもう一台のヒト型機械のもとへとじりじり寄せられていった。
「これじゃあ、潰される。クチャナ、崩せないの?」
フォーラの言葉に、クチャナは首を振った。
「帯電している。こちらが危ない」
その時だった。
こちらを攻撃してきているほうの、巨大なヒト型機械が、突然動きを止めて、轟音を立てて後ろに倒れた。そして、回線がショートする際の焦げた嫌なにおいをさせたまま、動かなくなった。
輝たちが驚いて倒れた先を見ると、そこにはアイラがいた。
「アイラさん!」
町子が嬉しそうに叫んで、アイラの名を呼んだ。今にも抱きついていきたかったが、まだ帯電している機械を踏み越えることができなかった。しかし、アイラはそれを軽々と飛び越えてこちらに来てくれた。
「そうか、アイラの得物は投げナイフだったな。助かるよ」
クチャナの言葉に、アイラは照れ笑いをした。
「このフロアにはこの敵だけみたい。もう一台はミシェル先生が」
そう言うと、まだ距離があるにもかかわらず、アイラはナイフを二本構えて、ヒト型機械に向かって投げつけた。ナイフは見事に機械の体の中心を貫き、主回線を切断して動きを止めさせた。もう一台のヒト型機械が倒れると、その先にミシェル先生がいた。
「私の力は邪悪な人形の回線をショートさせるみたいですね」
そう言うと、笑ってその先にある機械を全て止めて、倒していった。
「ミシェル先生無双だわ」
町子が、そう言って、見惚れるようにため息をつく。ミシェル先生は強かった。天使の姿をしていなくてもここまで強いのだ。大天使ミカエルは飛びぬけているのだろうか。
「無双ではありません。数が少ないだけです。さあ、増援部隊が来ないうちに早く、上階へ行きなさい」
ミシェル先生の言うとおりだった。どこからか、また機械が来る足音がする。輝たちはミシェル先生とアイラに礼を言い、その場を後にした。
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