青い薔薇 10
輝を追うことをあきらめて、町子たちはどうしたらいいのか迷っていた。ターゲットである薔薇のシリンの女性は輝と一緒にいるだろうか。それとも途中で輝の手を振り切って逃げてしまっただろうか。だとしたら輝は知らない町で一人きりになってしまったかもしれない。
そんな恐ろしい想像をしながら、それでも何もできずに、町子たちは、町の中を歩き回っていた。仕方なく、今夜泊まる予定のホテルの近くで輝を待つことにして、その周りを探すことになった。薔薇のシリンが一緒であれば、ここに一緒に来るはずだ。輝はこのホテルの名前を知っているし、薔薇のシリンはこの町に住んで久しいだろうから。
ホテルに入ると、そこは、周りの土壁や日干し煉瓦の建物とは違い、鉄筋コンクリートで作られた頑丈な建物だった。内装は豪華で、ロビーの中央には大きなシャンデリアがあり、床もきれいに磨かれた人工大理石が貼ってあった。窓は広く、砂漠の町の強い日差しが入り込んできていた。
「伯母さん」
ホテルのロビーで、深めのソファーに座った町子は、肘を膝の上に立てて頬杖をついた。
「伯母さんは月のシリンでしょ。薔薇のシリンの場所は特定できないの? 輝のことも感じられるんでしょ」
すると、向かいに座っているフォーラがゆっくりと首を横に振った。
「それが、ダメなの。何回試しても引っかからない」
「引っかからないって、伯母さんほどの力があってもダメなの?」
フォーラは頷いた。
「霧の中を探っているような感じで、私たちがどこにいるのかもわからなくなる。探ることがまるで危険なことであるかのように」
「探ることが、危険? それってどういう意味だろう」
フォーラは、思いつめた表情で考え込んだ。こんなことは初めてだ。地球のシリンによるブロックをかけられてことがあるが、それは壁のようなものだった。霧の中でかく乱されるようなことはなかった。
もしかして、他のシリンが新しい方法でこのようなことをしているのだろうか。それとも、例の薔薇のシリンにこのような能力が備わっているのだろうか。
だとしたら、彼らは、フォーラたちから輝を隠していることになる。シリンが戻すものを隠すということは、彼らが輝を必要としているからということにはならないだろうか。
「町子ちゃん」
フォーラは、心配そうにこちらを見る町子の肩に手を置いた。町子がこちらを見上げてくる。その顔は不安に曇っていた。
「輝君はたぶん大丈夫。確実とは言えないけれど、なんとなくわかるわ。だって、輝君が一緒にいるのはシリンなのだから」
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