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「うおおおおぅっ!」
気合一声───完全におれを殺す気のソウル、旦那を操り、数歩踏み込んできて、鋭い突きを入れてくる。これは間一髪で避けたらダメだ! 思いっ切り脚に力を入れて、低く転がりながら飛び退くと、おれの肩口を連続攻撃の横薙ぎがかすめていく。
その薙ぎは、力が強過ぎたか、回廊内側の柵を三本ばかりまとめて斬り倒し、四本目に食い込んでしまった。数秒の余裕ができた。その間におれは距離を取り、……考えろ。考えろ!
ソウルは剣の中にいる。ともかく、剣に操金魔法をかけることができれば、その時点で、おれの勝ちだ。あの尋常でない速さで振り回される剣に、触れることができたなら。
盾が要る。盾さえあれば。何かを盾にして、剣の動きを止められれば……。おれが真剣白羽取りできるような大振りを、旦那がこの狭い空間でしてくれるってんなら話は別だが、そんな期待はせぬがよい。剣に触れるだけなら、斬られちまうのがいちばん簡単? 旦那の本気の斬撃は、一撃必殺だ!
盾を作るなら、質量があって硬度の高い金属が必要だ。いやもう、この際贅沢はいわない、なんでもいい、金属製品はないのか!
回廊を、逃げる。回廊だから、ぐるぐる回り続けていれば、逃げるのに不自由はない。だが、いつまでも逃げているわけには……。情けない話だが、体力持久力は、旦那の方が数段上だ。まして今のおれは度重なるアクロバットで疲労困憊、とてもかないっこない。
……と、回廊を一周して、階段の上がり口のところに来ると、シェリーが心配げな顔で首だけ突き出していた。「アッジさん……」
すっこんでろ、と怒鳴りそうになって。
あ。
あったじゃないか。金属。
おれは、シェリーの首ったまに飛びついた。
「な、何をっ……?!」シェリーが驚き、ついでにどうしてだか顔を赤くしたようだが、かまったこっちゃない。
シェリーの首から、鎖ごと
そこへ、旦那が追いついてきた。
鍵を取るために、ケツを向けて姿勢を低くした状態のおれは、格好の斬りごろの肉のカタマリに見えたろう。剣が、振り上げられた。
おれは姿勢を反転させた。手を赤く光らせて。形を変えている暇はない。この長さ・大きさなら、剣を受けるには十分だ。問題は、旦那の斬撃の威力に、耐えられるか……。
旦那の剣が、振り下ろされる。ソウルの絶叫が、聞こえる。
「死ィネェェァ魔ァ法ォ鍛冶ィィ!」
今度は、おれは神に祈らなかった。
受け止めるまでのわずかな間に、不純物を弾き飛ばして、少しでも硬度を上げなければならなかったから。
近づいてくる
きん、と、小さな音がきらめいて匂った。おれの全感覚が火花を発した。……溶接!
鍵が赤く光る。光は剣を受け止め、刃全体を包み込んだ。それでも押し込まれてくる斬撃は、わずかに触れただけでおれの鼻っつらと眉間をまっすぐに裂いたが、……そこまでだ。
鍵と剣は、完全に一体化し、動きを、止めた。
今度は逃がさねぇぞ、ソウル!
眉間から流れ落ちる血の感触。さすがはおれの手入れした剣だよ、まったく。ずっと手入れしてきたこの剣を、錆に変えるのは、辛いが……だが、ためらってる場合じゃない。
このソウルには、なんとしても、冥土の土産に教えてやることがある。
最後に勝つのは、ヒトの知恵と技なんだ!
「錆びやがれェェェ!」
ぱぁん、と赤い光が飛び散った。
「……ァァァァァァ!」最後に聞こえたのは、ソウルの断末魔だったろうか。
……旦那の剣は、赤錆に変わった。錆は、吹き抜ける風が散り散りにしていく。
旦那が、がっくりとひざをつき、おれの足下に倒れ、意識を失った。
おれもその場で大文字になった。
ソウルの割れるような低い声は、もう聞こえない。「……、大丈夫、ですか?」次に聞こえてきた、木製階段のきしむ音、そしてシェリーの柔らかい声に、おれはなぜだか、泣けてきた。
今しがたついた眉間の傷を治すために、シェリーが回復の魔法を使ってくれた。その暖かい光に包まれて、おれはやがて、眠りに落ちていった……。
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