旅立ち

慰霊碑

 カラスが、わたしを運んで行ったのは、山とは反対側の街の外れでした。


 そこは小さな林になっていて、そばには池もありました。林と池のさかいめに、2階建ての建物がふたつ並んでたっています。

 その二つの建物が、動物愛護センターでした。一つが、保護された動物たちと会うことができたり、動物たちのことを学べる施設。そして、もう一つの建物が管理棟といって、保護された動物の検査や管理をする施設。恐いステンレスの箱は、この管理棟の方にあるのだと、カラスは、言いました。


 一年前の夏、山の中に置き去りにされなかったら、わたしも、ここに連れてこられたのでしょうか。


 わたしは、空からセンターを見ながら、おとうさんとおかあさんの会話を思い出していました。


「でも、保健所につれていくと、殺されちゃうんでしょ?動物愛護センターに引き取ってもらっても、何日かの収容期限がすぎれば、ドリームボックスに入れられて殺処分されるって、となりの奥さんから聞いたわ」


「だけどさ、転勤先では、ペットは飼えないんだ。それに、子供も生まれるしな。おまえが、出産で実家にかえると、こいつの世話はだれが、するんだよ」


「殺処分なんて、いくらなんでも、かわいそうよ」


「だから、あそこで車からおろせば、すぐに誰かが見つけて、拾ってくれるよ。山を越えたところにドッグランやドッグカフェもあるらしいから、犬好きの人の乗った車は通るはずだしさ」


 その時には、わたしにはおとうさんとおかあさんの会話の意味が、わかりませんでした。でも、今のわたしには、わかります。 

 センターの管理棟の前には、大きな石がありました。前にはお花が、かざられています。カラスが言いました。


「あの石は、慰霊碑いれいひって言って、死んだ動物たちをおまつりしてるんだ。俺なら、死んでからまつってもらうより、生きているうちに、邪魔者扱いしないでほしいと思うけれどな」


 カラスは、空高くから、慰霊碑に向かって、わたしを落としました。


 わたしは、くるくる舞いながら、空から落ちていきました。


 もしかしたら、あの小さな子猫も、ここで命を落とすことになるのでしょうか。ああ、わたしが落ち葉なのが恨めしい。わたしには、あの子猫を救ってあげることができないのです。

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