最後のごはん

 1年前の夏の日、人間のおとうさんとおかあさんが、いつもより、たくさん、ごはんをくれました。


 今日が最後だということで。


 何が最後なのかは、わたしには、わかりませんでした。

 夏は、まだ、始まったばかりです。


 もうすぐ、おかあさんに、赤ちゃんが生まれるそうです。

 そして、おとうさんのお仕事のつごうで、ここから遠くにお引っ越しするそうです。

 そのことは、わたしは、知っていました。おとうさんとおかあさんが、この頃、よく、その話しているのを聞いていたからです。


 わたしは、おいしいごはんをたくさんもらったことより、おとうさんとおかあさんが、いっしょにいてくれることがうれしくて、たくさん、しっぽをふりました。


 おかあさんが、言いました。

「良い人に、ひろってもらえれば、いいね」


 おかあさんは、そう言って、わたしの頭をなでてくれました。

 わたしには、おかあさんの言う意味がわかりませんでした。

 わたしにとっては、おとうさんもおかあさんも、良い人でしたから。おとうさんとおかあさんより、もっと、良い人なんて、わたしには想像さえできませんでした。

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