先輩と後輩。


前の職場には、

いつも一緒にいる先輩と後輩がいた。


先輩の方はガタイも良くて、上司からも信頼されているようないわゆる体育会系みたいな人で、対する後輩君は、こちらが話しかけなければ全く口も開かないような、大人しくて寡黙な子でした。


いくら先輩と後輩といえど、全くタイプの違うその二人が仲良くしているのが不思議だったむむは、ある日その二人が並んでいる時に、かねてから抱いていた自分の疑問をぶつけてみることにしました。


「お二人っていつから仲がいいんですか?」


そう尋ねるむむに向かって、先輩はガハハハといった豪快な笑いを浮かべながら言いました。


「実は俺、

この子が新人の時の指導係だったんスよ。」


…だから仲が良いのか。

むむがそんな風にふむふむと話を聞いていると、先輩はその後輩君の新人時代のエピソードを教えてくれました。


「…コイツ、今でこそ結構しゃべるようになったんスけどね。新人の頃は、本当にしゃべらなくて。こっちが何を聞いてもまったくしゃべらないから、ある日俺が彼にA4のノートを渡して、『とにかく何でもいいから、今思っていることをこのノートに書いてこい!!』って言ったんですよね。」


…いい先輩だなぁ。

そんな彼の今時では珍しいような情熱的な指導方法に、むむが感動していると、先輩はさらに言葉を続けました。


「…で、翌日コイツ本当にそのA4サイズのノートに思いの丈をビッシリと綴って来てくれたんですが…




…字が汚すぎて

全然読めなかったんです。」



…ぶはぁッッ!!

ダメじゃんッッ!!


隣で恥ずかしそうにモジモジとしながら

はにかんでいる後輩君を見ながら、


『立派に育って良かったね。』


と妙な母心を抱いたむむ山むむすけで

ありましたとさ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る