久しぶりだね、チュン三郎。


インコのチュン三郎を

もらって来てからというもの

一気に明るくなった

独り暮らしのむむの部屋。


今まで仕事が続く日は

ただの仕事と自宅との往復だけだったのに

家に帰ればチュン三郎がいる!


チュン三郎が待っているという事を

考えるそれだけで

いてもたってもいられなくなって、

むむは仕事が終わると

ソッコーで自分の家へと帰っていました。


家に帰ると、

まずドアの空いた音に

気がついたチュン三郎が

チュンチュン!

と鳴き声をあげはじめます。


それがとっても可愛くて。

むむは『今行くから待っててね~♪』と

チュン三郎に声を掛けながら

まずは洗面台に手を洗いに行きます。


そしてチュン三郎をカゴから出すと

一緒にテレビを見たり、

読書をしたりして過ごすのです。


なんの会話もありませんが、

チュン三郎と過ごす二人での生活は

本当に楽しくて幸せでした。


チュン三郎と暮らしはじめて

いつしか数ヶ月が経過していました。


世間はすっかり夏です。

けたたましいセミの鳴き声を聞きながら


「そろそろエアコンを使わないとね~」


そう言って

むむがエアコンの電源をいれました。


埃っぽいニオイをまといながら

流れはじめる冷たい風。


でもすぐにその埃っぽさも消え、

部屋の中は快適な温度に包まれました。


…が。しばらく使ってみる内に

むむはある異変に気がつきました。


「あれ…エアコン止まってる。」


…と。


そうです。

1年ぶりに使い始めたエアコンは

いつの間にか数時間おきに切れてしまうという不具合が生じていたのです。


むむが家にいる時は

例え切れてしまっていても

またリモコンで電源を入れれば

再開するのですが、


むむが仕事で出かけている時は

チュン三郎しかいません。


しかもむむが当時借りていた部屋は

日当たりだけがやたら良い、

とても手狭なワンルーム。


エアコンが切れると

一気に部屋の中の温度が

上昇してしまいます。


さすがに今年のこの暑さは

チュン三郎には厳しすぎるだろ…。


もはやこの家でチュン三郎を

無事に育てるには、

むむが職場に

セキセイインコを連れて通勤するか、

チュン三郎にリモコンの使い方を覚えてもらうしかありません。


もちろんどちらも到底無理な話なので、

むむはお母さんに事情を話して

チュン三郎をしばらく実家で

預かってもらう事にしました。


実家に帰ると、

全身真っ黄色なチュン三郎の姿を見た

お父さんが


「お~カナリアかぁ~」


…とか言っていましたが

とりあえず無視。


すると奥から出てきたお母さんが

チュン三郎を見るなり言いました。


「何かね、その黄色いのは。

ひよこかね。」


…と。


だからセキセイインコだってば。

何で分からないんだろうか、

この夫婦は。


こうして泣く泣くチュン三郎との

同棲生活を一時的に解消したむむは

しばらくの間

仕事にいそしむ事になりました。


やっと長い連勤があけ

実家に戻ってみると

父親も母親も出掛けており、

チュン三郎は一人でお留守番を

していました。


…カゴにも入らず

タンスの上で。


なんとチュン三郎は

むむの両親に8畳の部屋を

まるごと一室与えられていたのです。


しかもそこは冷暖房完備。

何故かテレビまで新調されています。


…インコにテレビはいらんやろ。


そう思いながら、

むむはチュン三郎を肩に乗せ

リビングへと移動して

そのまま両親の帰りを待つことにしました。


するとチュン三郎は

リビングについた途端に

むむの肩から元気よく羽ばたいて

冷蔵庫の上に置いてあるカゴに止まって

チュンチュン!チュンチュン!

と鳴きはじめました。


そのカゴの中には

お菓子が沢山入っています。


『お菓子が欲しいのかな?』


そう思ったむむが手を伸ばして

チュン三郎ごとカゴを机に降ろした瞬間…


「お利口りこうさん。」


と突然むむは誉められました。


そう、父親でも母親でもない…

まさかのチュン三郎に。


何かコイツ

急にしゃべれるようになっとる―――ッッ!?



『セキセイインコはしゃべる事ができる』

なんてただの都市伝説だと

思い込んでいたむむはビックリ!!


セキセイインコの語学力の高さに

驚きを隠せなかった

むむ山むむスけでありましたとさ。




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