結婚したら恋しちゃ駄目ですか?

@chihayaoi

第1話完結です

 あの時は、ワタシも盛っていたからな。

 男がしたいときがあるように、女もある。それも月のものがあるので、かなり激しい波となって襲ってくるものだ。

 酔いに任せて帰りに私から手をつないでみた。手を差し伸べたのは、ワタシ。乗っかってきたあいつ。

 よくある話だ。でも、それはそれで終わるつもりだった。

だって、わたしはちゃんと左手の薬指の指輪も確認した。手を出してはいけない人なんだとちゃんと確認したはずなのにな。でも会いたかった。だから一番ずるい手を使った。「友達になって」だ。友達は永遠に切れないから。

 法的制約をいくらつけても、子供が居ても、人の心は縛れない。

 今になって、思うと、あいつもワタシも普段の生活に不満があったのだ。とてつもない不満ではなく、なんとなくの不満。一言で言うと「つまらない」。毎日川のそこに溜まる汚泥のように積もっていく。自分が選んだ道なのに。昔の自分はもっと自由だったのに。だから取り合えず、何かをリセットしたくて酒を飲む。二人の出会いはちょっとした刺激だった。人気の無いところでキスする程度だけど、なんだか学生みたいで、返って楽しかった。

 小説ではこんな話はつまらない。現実世界で起こる大問題というのは案外、日常がほんの少しそれただけで起こることなんだろう。

 結婚してるからって、恋をしちゃいけないのですか? と疑問が浮かんだ。

だめだと言うなら、もうひとつ反論。自分の旦那や嫁に出会った頃のように恋してますか? 感謝じゃないよ。恋ですよ。

 ワタシの独断です。ワタシも結婚こそしていないが、3年ほど同棲していた。今で言う事実婚状態だった。

 ワタシのカレには前妻とのお子さんがいた。家のことを全部やって、自分の時間などない。疲れきって、カレとはセックスレスになった。カレは仕事に行って、帰ってきて据え膳食って、風呂入って、寝るだけ。ワタシは仕事から帰って、ご飯作って洗い物を片付けて、やっと自分のことを出来る頃には午前様だ。朝はワタシがカレを起こして洗濯物を回してごみの日は、家のゴミ箱を集め回って出した。

 誉められるわけも無く、出来て当たり前。少しサボれば、サボったと怒られた。料理の味が気に食わなかったら、怒鳴られた。夕飯の時間が近づくと胃が痛くなる日々だった。

 家事の疲れに愛情は見事に埋もれていった。カレは私にセックスを求めてくるが、本当に嫌だった。他で済ませて来い、とさえ思っていた。

 もし、カレに他に女が居たら怒っただろ。ただ、怒る理由が違う。

「そんなことする暇があるなら、私に文句を言うな。私を出て行かせてくれ」

だっただろう。世の中の主婦の人は本当に凄い。心から尊敬した。

  

 結局のところ、家庭を壊してまで私のところに来てほしいなんて全く思えなくて引き下がった。

 若ければ突っ走ったかもしれないし、もっと胸を痛めて悩んでいたかもしれない。

 面白いのは、いろんな女友達に相談してみて、みんな口を揃えて言うのは

「慰謝料」の話だった。離婚原因にもなる、奥さんを傷つけ、子供さんも悲しむ。その奥さんは、不倫相手にお金を請求できる。じゃあ、認めて払うの? ということだ。払えない。自分の生活でも精一杯なのに払えるわけが無い。

 10代、20代なら、気持ちを優先させていたのだろう。しかし、先に慰謝料の話が来るのが、自分たちがどれだけ年取ったか感じさせるじゃないか。

 あと、結婚というものが、一体どういうものかわかってきたからだ。

 当人同士の気持ちだけでは達成できないもの。相手の家と自分の家がつながるということ。小さな社会がつながる身近な大イベントなのだ。

 たとえば、自分の判断で、離婚を決心したとしよう。じゃあ、親にも報告しなければいけない。今まで、連休のときなどつれて帰っていた嫁と離婚すると聞いたら、どんな顔するかな。親としたら、息子と結婚してくれた嫁を娘としてかわいがっていたのにと悲しくなるかもしれない。気に食わなかったら、万々歳だろうけど。子供が居れば、息子の子供を命がけで生んでくれてありがとうと思う気持ちもあるかもしれない。いろんな気持ちがよぎるだろう。そんな親を説得しに行くなんて、気が遠くなるではないか。

 ワタシはそんなことまで、想像して、そなんなこと全くしてほしくないと思った。そんな事をさせた発端がワタシなんてことになったら、責任が重過ぎる。

自分を守ったのだ。その程度だったのだ。

 軽く手を出すには重過ぎるのだ。ちなみにイスラム圏の国では不倫は死刑だ。

 人のものが、自分のところに来たって、所詮人のもの。 

 結局は長年積み上げてきた感謝が一番強い。自分が外で精一杯働けるのも奥さんが、洗濯して、きれいなワイシャツを準備してくれて、健康を考えてご飯を作ってくれて、家を守ってくれているから。外でしっかり働いて呑みたくなくても呑んで、嫌なおやじの話を聞いて、金を稼いでくれているからスーパーで買い物できるし、子供を塾に通わせることが出来るのだ。

 みんなわかってるんだろうけど、やっぱり人間の心は毎日何かしら傷ついてぼこぼこだから、それを埋めたくて、だめだといわれているものに走っちゃうんだよね。毎日顔を合わせるようになれば、嫌になるよね。でもね、男は外で本当に戦ってるんですよ。だから、本当は心の中はぼろぼろだったりする。

 だって、女は開き直るけど、男は開き直れない。同じ仕事を女と男に与えたら、女は面倒な部分は手を抜くけど、男は面倒でも手を抜かずに出来るだけ完璧にしようとするもん。 

 だから、私が思う浮気防止の心構えとしては、「この人は絶対しない」じゃなくて、「この人も、私も絶対する」と意識することだ。危機感があれば、じゃあ、どう接しようか動き方を変えるだろうし。防災の心構えと一緒だと思いました。

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