道は続くよどこまでも
正保院 左京
第1話 思いは続くよどこまでも
彼はは高校を卒業後、路線バス会社に入社した。
ここは人口1万人にも満たない小さな町。駅前の商店街はシャッターが降り、まだ昼間だと言うのに人ひとり歩いていない。人口減少が著しい典型的な過疎地域と言っても過言ではない。
「古臭い」
「寂れている」
「便利が悪い」
大学進学や就職。何らかの理由につけて若者達は街を出ていった。多くはもう二度と街へは帰って来ない。
そんな街を彼は「記憶の片隅に残る街」と言う。
彼はこの街に残ることにした。生まれ育ったこの街のことがたまらなく大好きだったのだ。
だから彼は田舎の運転士として生きて行く道を選んだのだ。バス会社に就職し、下働きを経て晴れて路線バスの運転士となった。
彼の走る路線は、バスセンターから市立病院を経由し、山の中へと進んで行く。奥に進めば進ほど人の乗り降りは少ない。
一日に数人乗るか乗らないかの乗客。大体の客層は車を持たない高齢者。そんな人にとってはなくてはならないが、運賃は割高であまり人は乗りたがらない。
通学でバスを利用していた子供達も時が経てば皆、免許を取って自分で車を運転したりするようになり、バスに乗ることも無くなる
年々利用者が減り続ける仕事だが、今でも人から必要とされている仕事でもある。無くてはならないこの仕事を彼は誇りに思っている。
彼は沢山の人に好かれる存在だ。彼の運転するバスに乗る馴染みの乗客たちは決まって彼に話しかける。
くだらないけれども、それは彼らにとってはとても貴重な時間なのだ。そして新しい出会いがあれば、別れもある。仲良くなった学生であれど、何時しかこう切り出す。
「この町を出るんだ」
これが別れになることは分かりきったことだ。大きな荷物を抱えたその姿を見たときから栄にはわかっている。寂しさを押しこらえて彼は去りゆく人たちを送り出す。ここからそれぞれ新しい生活が始まるのだ。
悲しみの向こうには、夢と希望が詰まっているのだから。
だから彼は寂しさをこらえ、心を込めて送り出すのだ。
この男の名は東山
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