第15話 転生の資格
何も見えない。
触れるものもない。
そんな中で意識を取り戻した。
この状況、橋に居た時と似てはいるが別物だ。
今は目も、耳も、手足も無くなっているらしい。
これは既に経験したものだ。
「お久しぶりです。イバラキはどうでしたか?」
どこからともなく声が聞こえてきた。
やはり前と同じく、意思を直接伝えられたような気がする。
「オレは、また死んだのか?」
自分の状況を振り替えると、そうとしか思えない。
あれだけの滞空時間だから、よほどの高さに違いない。
生きてる方が不思議なくらいだろう。
「正確に言うと私の傍に呼び寄せた、となるのですが。まぁ解釈はご自由にどうぞ」
半ば投げやりな返答が返ってきた。
こいつが曲者気質であることを、今更ながらに思い出した。
「呼び寄せたってことは、何か用でもあるのか?」
「ええ、もちろん重要なお話が。決してお茶の相手などではありません。そこまであなたを気に入ってませんし」
「悪かったな。オレもお前と雑談をする気にはなんねぇよ」
いちいち挟まれる無駄口が腹立つ。
バシッと端的に話せないもんかよ。
「お話と言うのは、転生についてです」
「今さらなんだよ。わざわざ呼び寄せてまでする話なのか」
「異世界転生という奇跡は、お察しでしょうが『死んだ人間』にのみ適用されます。生者には本来無縁のものです」
「そうかい。それがどうしたってんだ」
「それが今回ばかりは、生きたまま転生してしまった例が生じました。それが……」
「おい、まさか?」
「そう。あなたです」
ここへきてとんでもない事実を告げられた。
生者ってことは、オレ死んでなかったのか?!
「あの時あなたは仮死状態でした。あの様子だと直(じき)にくたばる……天に召されるであろう容態でありました」
「でも、死ななかったんだな?」
「その通りです。意識不明の状態ではありますが、奇跡的にも息を吹き替えしたようです。後は魂が戻りさえすれば、転生前の暮らしへと帰れるでしょう」
「つまりは、東京でまた暮らせるってことか?」
「そうですが、何か不都合でも?」
転生当初だったら飛び付いてた話だろう。
一刻も早くイバラキを出たかったからな。
東京に帰れないと知ったときの絶望感は、まだ記憶に新しい。
それでも、だ。
予想外にも暮らしやすく、豊かなあの世界を気に入り始めていた。
そして何よりも……。
アヤメだ。
あいつを置いて行くわけにはいかない。
境界を越えても、越えなくても、一緒に居たい。
勝手な言い分かもしれないが、そう思っていた。
「なぁ、その話はナシだ。イバラキに戻してくれ」
「そうですか。それは無理な相談ですね、そもそも資格がないのですから。これは自分のミスを揉み消したいとか、決してそんな理由ではないです」
「無責任じゃねぇか! オレの気持ちは、残された連中の気持ちはどうなる!」
「その言葉、東京のご両親が聞いたらどう思うのでしょうね」
「ッ! それは……」
自分のミスを棚に上げつつ正論を吐きやがって。
思いっきり殴り付けたくなったが、今のオレは手も足も持ち合わせていない。
「お詫びといってはなんですが、元の世界へと戻るあなたへアドバイスを送りましょう」
「……なんだと?」
アドバイスだなんて、何を言う気だろう。
もしかして例の境界の突破法とか?
それとも結界の破壊方法とかか?!
だとしたら有りがたい……かもしれないな。
ウーンと唸り声が続く。
よっぽど考え込んでいるようだが、どれだけ有用な助言が飛び出すんだろう。
一言一句逃さないよう、神経を尖らせた。
「ええと、アドバイスですが……超がんばれ」
「はぁッ?!」
「では行ってらっしゃい。あなたに幸多からんことを」
「テメェふざけんなよぉー……」
オレの意識が揺らぎ、霞んで、そして途絶えた。
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