二律背反パラノイア
蔦乃杞憂
隣のストレンジャー
『隣のストレンジャー』
『ツウィッター』は、数年前スマートフォン専用として配信を開始したアプリケーションだ。
種類的にはSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)と呼ばれるものであり、その部類に合った内容のサービスを提供している。
前述の通り、数年前の配信開始から利用者は三億人に及び、国内に留まらず国外へと流れ込んだ。
利用者は自身のアカウントを作成し、そこに自分の身辺で起こった出来事や体験、あるいは趣味なんかを呟くわけだ。そのやり取りの間、意気投合した人物とフォロー、フォロワーの関係になることもある。
ここまで人口が増えた原因は、アカウントを簡単に、かつ複数作れることによる『匿名性』と、誰でも、誰とでも繋がれる『気軽さ』にあるのだろう。しかし、長所は同時に短所にもなりえる。光が強い程闇が濃くなるように。
俺こと有栖川アイラは、つい最近、偶然にもその闇と遭遇してしまった。偶然のように思えるが、偶然なんて単なる事象と事象の組み合わせだ。つまりは必然。そうなるべくしてなったのだろう。
俺の友人の内の一人が、最近スマホを買ったと聞いた。名前はK。
高校生にもなって今までスマホを持っていなかった理由は、単に彼が重度の機械音痴だったからだ。しかし、親や友人との連絡が難しいとのことで、これを期にスマホデビューしたという。
それから数日後、俺のスマホに一件の通知が届いた。
『K@2の1HRさんからフォローされました』
それはツウィッターからの通知で、正真正銘Kと同名の人物からによるものだった。Kもツウィッター始めたのか、その時俺はそう思い、フォローを返した。
『なあ、有栖川。お前の住所教えてくれない? DMで教えてくれればいいから』
『どうして』
『年賀状送りたいけど住所分からんから』
少し不自然に思いつつも、俺は住所をKに教えた。今となって思い返せばこれが間違いだったのだと痛感している。
年明けから数週間。冬休みは終わり、学校が始まった頃、俺は休み中に来た年賀状の整理をしていた。数十枚とそれなりの枚数がある中、何故かいくら探してもKからの年賀状がなかったのだ。
例年なら何だ、来てないのか、で済ましてしまうが、今年はKから年賀状を送るから住所を教えてくれと言われている。そのKから年賀状が来ていないというのは話が合わない。
スマホに入っている無料メールアプリを開き、Kにこの旨を伝えた。
『おい、年賀状届いてないぞ』
『年賀状? どういうこと』
思わずスマホを触る手を止めてしまった。危うくスマホを落としそうになり、慌ててつかみ直す。何が起きている......? 文字を打とうとしたが、指先が震えて上手く打てない。
何とか数分かけて打った文章を送信した。
『前にツウィッターで住所教えてって言っただろ』
『言ってないよ』
それは、ある意味予想していた答えだった。額に脂汗が滲み、呼吸が荒くなる。空腹でもない、いたって平常の腹はきりきりと、まるで尖った何かで胃の内側を突いたように痛み出す。
『それに』
既に狼狽しかけている俺に、Kは追い討ちをかけるが如く文字を綴った。
『僕はツウィッターなんてやってない。何せ自他共に認める機械音痴だからね』
二回目、手から滑り落ちたスマホは、俺の手の支えを失くし今度こそ床へと落下した。低い音が部屋中に響き、鼓膜へと伝播した。呼吸が上手く出来ない。口をパクパクさせながら必死に酸素を肺に入れようと試みるも、上手くいかない。
「..................じゃあ」
思わず口に出てしまう。掠れた小さな声で。ゆっくりとした動作で床に落ちたスマホを拾い上げると起動させ、ツウィッターを開く。
ある人物のプロフィール画面を表示し、焦点の定まらない目で『ソイツ』を見て、言った。いや、『言ってしまった』。
「オマエ..........................................ダレダ」
その瞬間、来訪客を告げるインターホンが鳴った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます