エッセイ:林檎さんのこと

瀬夏ジュン

ギャンブル〜林檎、命がけの日々

通勤中にiPhoneで聴くのは、最近はジャズばっかりだった。

先日、たまたま「平成風俗」の一曲目「ギャンブル」を聴いた。

つり革を握りながら、涙が出た。



そこでアルバム通して聴いてみると……。

全曲、泣ける!

「無罪モラトリアム」だけじゃなかったんだ。

「平成風俗」があったんだ。



会社があざと過ぎて、避けるようになった?


うん。


でも、つまみ聴きしてたでしょ?


うん。


気がつかなかったのは、鈍感だったからでしょ?


いや、ちゃんと聴こうとしていなかった。


東京事変がかっこよすぎたから?


そうかもしれない。



唐突に終わらざるを得なかったあのバンドの、最高に洗練された絶頂期。

それを知ったあとに聴いたからね。

眼が曇っていた。耳がふさがっていた。

疑心暗鬼になっていた。



「無罪モラトリアム」以来、彼女のソロをほとんど聴いていなかった。

そんなおれにとって、いま「平成風俗」は彼女を代表する作品の筆頭になった。


彼女は変化していたはず。


けれど、変わってはいなかった。



大人になる直前の少女。

才能を持つが故に、多くのものを見てしまった。

汚い者、愚かなもの、醜いもの。

大きく、恐ろしいもの。

身を削って作品を紡ぐなかで、彼女はどれほど葛藤したろうか。

どれほど怖かったろうか。



毎日がギャンブル。

命をかけた。



渋谷陽一は彼女に面と向かっていった。

表現者 ” 椎名林檎 ” は、タフである、と。



それは、彼女の持ち得た、一番大きな才能なのだった。

そのままでは生きられない病といっしょに授かったもの。

そしてそれが折よく発揮された奇跡。

おれたちは、その幸運に、いま深く感謝する。





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