医のなかのカワズ

田中 芳春

プロローグ

「初めまして、医療ソーシャルワーカーの川津と申します」

73歳、女性。今回介入を依頼された患者は、帰る家がない。度重なる家賃滞納を理由に、大家から退去を言い渡されてしまったのだ。


「これはこれはまぁまぁ、お世話になります」

淡いピンクの病衣を着た患者は、よっこらしょと呟きながら起き上がり、ひと息つきながら微笑む。

患者には、記憶のない時期がある。肝性脳症から来る一時的な認知機能低下があった。至極簡単に言えば「お腹が減るとボーッとする」の重度なものである。


正直、退去の事実を本人へ伝えるには気が重い。だが問題を解決するには、患者の想いを受け止め、一緒に考えて行かなければならない。

それが私の

「医療ソーシャルワーカー」

という仕事である。

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