4日目 ごろごろの先に


 大丈夫、眠れるよ。


 自分に言い聞かしながらゴロゴロと転がる。夏の夜は寝苦しくて、暑いんだけど寒くて、そうしているうちに暑くて。雑魚寝しているとまわりの人が寝たか寝ていないか分かる。みんな似たようなものだ。眠れない理由はいくつかあるけど全部そのせいじゃない気がした。夏だからだ、それくらいだ。明日の予定を考えてみる、今日のことを振り返ってみる。開いた窓から外の空気が入ってくる。少し寒い気がしてまた掛ける、どうせすぐに取るだろうけど。


 少し不思議な私はいつも少し不思議なことを考えて妄想してこの夜を乗り切る。頭を使うことに疲れていつしか眠りにつけるまで。そんな私も夏仕様、紺色の水玉やボーダーの半袖といつかの学校の短パンで転がる。隣にもふすま挟んで向かいにも自分以外の人がいる。だけどもそれでも頭が動き出すだけでいろんな自分になれる、いろんな場所に行ける、好きなことができる。全く便利なものだよ、といつもの夜を過ごしていく。


 追いかける夢とは違う、眠ったものの夢は科学的にも証明されているけれど、少し不思議に変わりない。頭の、脳みそのすごさとおかしさと面白さがわかる。バカみたいに細かいかと思えばアバウトな、そういうところがいいのかわるいのか。感覚を、間隔を、うまく使える人は自分の体をわかっている。そういう器用さが欠けていることを自分で反省しては同じことの繰り返しで、いつもとおなじようで違うその日はとても疲れていた。つまり夢も見ずにぐっすり眠ったというやつだ。違う、夢は見たんだ。朝起きて混乱した夢を。


 夢の中で私は眠れずにごろごろとしていた。いつもとは違う星柄のパジャマで白地に小さい紺の星柄の散りばめられている。たぶん反転したお揃いのパジャマがあるんだろう。自分でも恐ろしいほど似合っていないと思う。でも夢の中の私はとても気にいっている。紺の星は小さくてだけどちゃんと5つ角がとんがっていた。私は眠れずにごろんと転がる。なんだか小さい声が聞こえた気がした。中の私は気づかない。今度は腹ばいになった。また聞こえる。そこで私は『ああ、あの星には何かいるんだ』となぜか思った。私は夢の中の私にころがらないでじっとしてと声をかけるが聞こえない。彼女は自分が眠れないことで頭がいっぱいなのだ。背中の星には何もいないの、だから仰向けになって、と。なんて都合がいいんだろう、だけどそう思って私は必死に夢の中の私に声をかけているのだ。やめて、死んじゃう、鬼、悪魔、人でなし、起きろ、こっちに来い、殺してやる、思いつく限りで自分を罵る。そして私は動けずにただその殺戮を、とは言っても小さな声が聞こえるだけでなんともわからないその光景を見せつけられている。


 そのうちに私は眠れない方だったのか、罵っている方なのかわからなくなって、もう1人なのかわからなくなって起きた。



 ごろごろの先に見た夢は眠れない夢で、夢なのか夢じゃないのか、夢の中を歩め。

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