上の部屋の彼女
村上 茄子吉
第1話
「ねえ、このマンションに
「なにそれ、初めて聞いた……」
「あ、やっぱり知らないんだ。まあ、ご近所さんと全然交流してないもんね~」
「し、仕方ないだろ? 平日は早朝から働き詰めだし、休日は寝てるか君と過ごすかだし」
「まあ、そうだよね~……」
「……」
「……」
「……で?」
「ん? な~に?」
「いや、その~……どんな噂なのかな~って、いや、そこまで聞きたいわけじゃないけど、ちょっと気になるというか、なんというか……え、本当にそんな噂あるの?」
「もちろん!」
「ふ、ふ~ん、そうなんだ~。いや、まあ、そ、そんな噂なんてき、気にしないけど」
どうやら、彼は幽霊とかは苦手らしい。
「そっか、気にしないんだったら話さなくてもいっか。じゃあ、この話はここま」
「いやいやいやいや! ここまで話したんだから最後まで話そうよ!」
ここまでもなにも、全然話していない気もするが……
「やあ、そんなに期待してるところ申し訳ないけど、そんな大した話じゃないよ? それでもいい?」
彼は何も言わず、首をブンブン縦に振っている。どうやら、怖い話は苦手だけど中途半端にしか知らないと、より怖がるタイプのようだ。
「じゃあ、話すよ~。あれは、このマンションが出来て間もない頃の話でした……」
なんでも実は前々から
彼はその日のうちに荷物をまとめ、出ていってしまった。
一人残された彼女はその日から家に
そして
以来、彼女の
という、最後のあたりが
「ちなみに、引き籠ってる間にネトゲに
ついニヤニヤしながら話してしまった。案の定、彼は部屋の隅っこで震えていた。いやはや、まさかここまでの怖がりだったとは。
「お~い。大丈夫か~い? もう終わったからこっち戻っておいで~」
「お、終わりか? な、なんだ、全然こ、怖くない、じゃん」
完全に声が上ずっていた。
「あっはっはっは! だから大した話じゃないって言ったじゃん! もちろん、こんな話なんて怖くないよね~?」
「あ、あた、当たり前じゃん! ち、ちなみに、その浮気した彼氏はどうなった? ま、まさか呪い殺されたとか……」
あ、怖がっているだけじゃなくて、ちゃんと聞いてたんだ。
「ん~どうだろう? まあ、ただの噂だからね~。そんな細かいところまでは聞かないけど、たぶんそんな恐ろしいことになっていないと思うよ。とりあえず、あたしは知らないかな~」
本当は知ってるけど。
「そっか、まあただの噂だもんな。はは、ははは」
「ねえ、ようやく立ち直ってきたところ悪いんだけどさ、この自殺して幽霊にまでなった女性のこと、君はどう思う?」
「どうって、そうだな~……わかんない」
「ええ? わかんないって、何かないの?」
「いや、そう言われてもね~、会ったことない人だしな~。まあ、死ぬ前に会ってみたかったかな。どんな人が幽霊になるのかちょっと気になるし」
「ふ~ん。じゃあ、幽霊になった彼女と会ってみたい?」
「いや、それは
「さてと、じゃあそろそろ帰ろうかな~」
「あ、もうそんな時間か。一応送っていこうか?」
「いいよいいよ。おんなじ建物の上の階だよ? 何も起きないって」
「でも、その、幽霊が出るかもしれな……いや、なんでもない」
「あっはっは! あの話、信じたんだ!」
「え、もしかして嘘だったのか?」
「いやいや、噂があるのは本当だよ。ただ、本当に幽霊を見たって人もいないし、本当にただの根も葉も無い噂だよ。だから、大丈夫!」
「やっぱり噂話があるのは本当なのか……まあ、ついて行かなきゃ大丈夫みたいだしな。じゃあ、またな~」
「うん。またね~」
彼の部屋を後にする。結局、幽霊がいる部屋番号は聞かれなかったな~。
私は彼と同じマンションの、一つ上の部屋に住んでいる。いや、住んでいると言っていいのだろうか?
「はあ~。いつ気付くかな~。上の階が空き部屋だってこと」
誰もいない空に一人
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