どっぺる
ソルティ
プロローグ
「華、お誕生日おめでとー!」
「おめー」
「ありがとー!!」
私が生まれて、16年が経った。
誕生日だと言うと、中学の頃の友達が集まってくれて、祝ってくれた。
そう言うところとか、私は彼らが好きだ。
「ねえ華、知ってる?」
「なにを?」
一人の少女が私を見つめて言った。
「玲くん、隣町に引っ越しちゃったんだって」
唐突な言葉に一瞬何も言えなくなる。
玲。
私の幼なじみだが、これと言って思い出もなかった。
強いて言えば、彼らのグループで楽しくやってたことぐらいか。
それでもやはり、仲間がいなくなるのは少しさみしかった。
「そっか」
「寂しくないの?」
「そりゃ寂しいけどさ。家族の都合とかでしょ。」
「そっかぁ」
彼女は言い、ケーキの苺を口に入れた。
「華はてっきり、寂しいかと」
「なんでよ」
「好きだったでしょ、玲のこと」
「はあ!?」
「違うの?」
断じて違う、と言う代わりに、私は彼女を睨み付けた。
おおこわい、と冗談めかして彼女は私から離れ、お菓子を取りに行った。
私が彼を好きだった?
有り得ない。
ただの幼馴染みだというのに。
以上も以下もない、ただそれだけ。
パーティが解散になったのは、夕方6時だった。
私がこの世に生を受けて16年。
随分早かったな、と私は思った。
先程までのパーティは楽しく、バカバカしく、体はまだ火照っていた。
少し楽しみすぎたかな。
悪い気はしなかった。
ふと、遊具が目に留まる。
小さなころ、私がよく遊んでいた公園だ。
ブランコ、シーソー、滑り台。
ありふれた遊具が時に船になり、時に崖になり、たくさんの想像力を働かせて遊んでいた。
「懐かしいな…」
私は呟く。
私はその公園に寄ることにした。
小さな頃は遊具は大きかったはずが、今ではもう小さくなってしまっていた。
船や崖は、もう小さくなってしまった。
「それは、あなたが大きくなったからよ」
ふと、声がした。
振り向くことは、許されなかった。
「!?」
「それも今日で終わり。ね、ほら。」
地面に突き飛ばされ、顔を押さえつけられる。
顔は見えずとも、その声はよく聞きなれた声だった。
そう
紛れもない、自分の声。
「私……!?」
「そう、あなたよ。あなた、あたし。ふふっ」
笑い声までそっくりだ。気持ち悪い。
「忘れられた彼。可哀想に。ねえ、あたしとあなた、どっちがほんもの?」
しゃべり方もそっくり。気持ち悪い。
私はなんとか顔を引っ張り、彼女の手から脱け出し、離れた。
顔を見る。
顔まで私そっくりだ。鏡で毎朝見る、私。
気持ち、悪い。
「なに、あんた」
「あたし?あたしの名前は華よ。」
「……そうじゃない」
「ドッペルゲンガー」
ニヤリと笑う。「知ってるでしょ?」
知ってる。だが、あれは、作り話じゃないか。
もう一人の自分が現れ、それを見た人は死ぬという。
けれど、それは霧などの錯覚として説明がされているじゃないか。
幽霊の類いだ。そう簡単に、日常を犯してはいけない……
「ドッペルゲンガーは存在するの」
彼女が話を始める。
人は、もう一人の自分をみたら殺意が芽生えるという。
自分という特別な存在がもうひとつあることが、自分が好きであれ嫌いであれ、許せないのだという。
成る程、確かに。
殺意は芽生える。
「理由は結論付けられているけれど。でも、他人が二人の同じ人間を同時に見ることは説明がつかないでしょ」
が、目の前の彼女は気にせず続ける。
「じゃあ、どうして存在するのかというとね。」
間。
「本物と入れ替わって生きる為なの」
彼女は胸元から、小さなナイフを出した。
どうして逃げなかったのだろうか。私は後悔をした。
直線的に走ってくるのを避けることができず、肩にナイフが刺さる。
激痛がおそいかかってくる。
同時に、背中にも痛みが走る。
押し倒されたのだ。
上に乗られ、ナイフが振り上げられる。
殺される。
そう思った時には、心臓へ痛みが走った。
いや、痛み、等と言うものじゃなかった。
目の前が暗くなる。
これが、死か。
ドッペルゲンガーは、このあとどうするのだろう。
死体は、血は、得物は、どう処理をするのだろうか。
知る術は、既に無かった。
「ふぅ」
あたしは、あたしの足元で眠る私を見た。
目を閉じさせ、胸元からナイフを引き抜く。
「人殺しになるよね、やっぱり」
人気のない公園で呟く。
だけど、自分を殺したらどうなるのだろう。
とりあえず警察は動かない。
だって、「私」という存在は生きているから。
あたしは鞄からスマホを抜き取る。
これだけは、複製が難しい。
だから。
「もしもしお母さん?あたしよ。今から帰るね!夕飯?……じゃあ、ハンバーグがいいな」
あたしは母へ電話を掛けた。
さて。
私は、家路に出た。
既に死体は無くなっていた。
「今日は私の誕生日。でも、あたしの誕生日になるの」
私は確かにあった私の亡骸があった場所を見る。
「あたしは私より私を生きる」
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