#18
ゴクリと唾を飲んだ田辺は声を張って言った。
「なんで、秋葉原の駅ってだけで俺が犯人扱いなんだよ!? そもそも、その行動心理学か何か分からないけど、単なる推測だろ!? さっきも言ったが証拠を出せよ!!」
「証拠ですか……なら、皆さんにお聞きします。挙手でお答え下さい。本日、伊藤さんが、電車で秋葉原に行くと知っていた方は居ますか?」
サークルメンバーは、誰も手を上げては居なかった。
「えっ……」
田辺は状況が分からない様子である。
「誰も手を上げませんでしたね、部長さん?」
嫌らしく万治は田辺に問いかけ続けた。
「ここの大学は御茶ノ水にあり、そして秋葉原となると歩いても十分程度。ましてや節約の為に自転車通学をしているので有れば、普通は自転車で秋葉原まで行きます。
彼女がバイト先などにも自転車で言っている事は、飲み会などをやっているサークルメンバーは周知のはずですが?」
サークルメンバーに万治は問いかけると、大岡が
「それはそうだが……」
と頷いた。
「今日は特別なイベントの日。もし焦って折角のフィギュアを落としたり、自転車のカゴでガタガタさせて箱を凹ましたら、オタクとしては大変だ。なので、自転車は利用したくない。
しかし、サークルへの遅刻は出来ない、何故なら過去に部長に起こられた事が有るからね。だから余裕をもって出席したい。徒歩より電車の方が速いと言う事で、已む無く電車にした訳だよ」
田辺は話を進める万治を睨んでいた。
「しかし、そんな事情を知らないサークルメンバーは当然、自転車で行ったと思っている。では何故アンタは、電車での移動だと分かるんだろうか?」
その万時の問いかけに、苦虫を噛み潰したような顔の田辺は言った。
「ひ、昼に行く時、伊藤の自転車が大学に在ったのを見たからだ。そしたら、電車で行くんだなと想像するだろ?」
「ほぅ……確かに」
万治がクスッと笑い頷くと同時に川下は声をあげた。
「お……おかしいですよ、それ」
田辺はゆっくりと川下の方を向く。
「だって、部長は『十二時半』にお昼とったんですよね? でも、その時間、私達はまだ大学に居ましたよ? 私達は『十三時十五分頃』に秋葉原についています。
御茶ノ水の駅からは十三時過ぎの電車に乗れば間に合うので、私達は少しここに残っていましたけど……」
恐る恐る川下が言うと、
「あ、あぁ、勘違いしたんだ。伊藤がずっと楽しそうにしてたから、直ぐに向かうのだと思ってさ」
思い出したかの様に田辺は話す。
川下は少し身を引いた。
それを見た万治はフォローを居れる。
「でも、そしたら先にサークル室を出て行った部長さんの発言はおかしい。とってつけたとしか言い様が無い。
『自転車が大学に在ったのを見て、電車で行くんだなと想像した』と言うのは出来ない。
だって、部長さんより先に出て行った二人を見て居ないのだ。アンタ自身も他の誰も。
にも関わらずアンタの言い訳だと、彼女らは先に出て言った発言でなければならない。
それを証明できる人物が居ます。ね? 大岡さん」
万治は首を傾げて大岡に尋ねた。
それに頷いて大岡は答える。
「あぁ……、俺が最後までサークル室に居たからな。さっきも言ったが、調べもんしてたんだ。伊藤と川下は確かに十二時半過ぎ迄は居たよ」
それを聞いた万治は頷き、
「寧ろ、先に部長さんはサークル室を出ないといけない訳だしな」
と、付け加えた。
震える手を握った伊藤が、チラッと瞬間的に田辺を見た後、恐々と万治に聞いた。
「……どういう事?」
「伊藤さん、アナタの行動を監視する為にね」
青い顔を浮かべる伊藤と川下。
唖然とする大岡、林田、森野。
今にも田辺に殴り掛かりそうな狂気の目で睨むアヤメ、田辺をニッコリ笑顔の万治。
その場の皆の視線の先には、大きく息を吐いて、歯をグッと噛んで体を震わせ悔しい表情を見せる田辺が居た。
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