第5話 第一村人発見。すみません地球から来た者ですが、すこしお話しいいですか?

 豪華な馬車が立ち往生。なかにわすのは、どこぞの貴族か、姫君か。


 恐る恐る近づいてゆく。

 だって、道の真ん中にいるんだもん。面倒に巻き込まれたら大変だから、そっと脇を抜けよう。

 ヒトセさんも同じ意見らしく、馬車のなかを覗いたりすることなく、私のあとに続いて馬車を迂回する。

「ちょいと、ちょいと!」

 馬車の方から声を掛けられ、ビクゥッとすくみ上がった私を隠すように、ヒトセさんが私の前に立つ。

 いやだ、男前っ!

「なにか御用でしょうか」

 ヒトセさんが低い声で相手に応じる。

 彼を盾にしながら、そっと窺えば。立派な馬車の窓にはカーテンが掛けられて、なかが見えないように配慮されていて、御者台には立派な制服を着た小柄な男性が立っていた。

 そして、特筆すべきは、馬車を引いている馬だ。馬、もとい、ユニコーン。

 そのユニコーンのつぶらな青い瞳とバッチリ視線が合った。そして、おいでおいでするようにちいさく首を振られる。


 真っ白なたてがみがフワフワと風になびき、立派な角は不思議な事に青白く透き通っている。ああ……触れたい。


 目の前の広い背中を外れて、ふらふらと近づこうとした私の腕を、大きな手が捕まえる。

「どうした、テンちゃん!」

「ぶふっ!」

 焦って叫んだヒトセさんの言葉に思わず吹き出し、ハッとする。

「あ、あれ? あの馬と目があって……」

「おお! お嬢さんは、無垢でございますか。それは、ありがたい! どうかお願いでございます。このユニコーンのたてがみを撫でてやってくださいませんか、どうにもヘソを曲げて歩かなくなってしまったのです」

 御者が嬉々として訴えてくると、馬車のなかからココンと叩く音がした。御者が慌てて近づけば、なかから出てきた手袋をした手が革袋を御者に渡す。

 御者は恭しくそれを受け取ると、それを掲げ持ったまま私の前にやってきた。

「こちらは、御主人様からのお礼でございます。どうか、どうかお願いいたします」

 なにか裏がありそうだと思わなくも無いが。

 困って、ヒトセさんを見上げると仕方なさそうに頷いた。

 そうだね、偉いヒトに刃向かって殺されるよりは、ましだよね。こっちの世界って江戸時代と命の価値がおなじくらい、だっけ?

 切り捨て御免は、ちょっとね。

「わかりました。あの、噛んだりはしないですよね?」

「お嬢さんには絶対に危害を加えたりしませんです! それだけは、絶対、絶対に間違いありませんです!」

 力強く請け負われて、ちょっと引く。

「じゃ、じゃあ、撫でます」

 ヒトセさんと一緒にユニコーンに近づこうとしたら、慌てた御者に止められた。

「禊ぎもしてないただの男が、ユニコーンに近づいちゃなんねぇです。それだけは、絶対に、いけませんです!」


 角でひと突き、らしいです。

 

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