傷鴉より与えられし異能力 〜スカーカラスからスカっスか〜
ウサギ様
第1話:神に断られし男
突然ではあるが、俺は女の子にモテたいと常々考えている。 特に歳下の女の子にモテるのが理想だ。
かわいい女の子の匂いを嗅いだり、褒められたりするのは至高の幸福である。
女の子にモテることよりも、最強を目指したり、富と栄誉を求めるような奴は、おそらくではあるが童貞だろう。 女の子の柔らかさを知らないからだと思われる。 俺も知らないけど。
苛烈な権力争いに勝利したこの国の国王様も多分童貞、世継ぎいるけど。
纏めると、女の子にモテることはあらゆることよりも優先すべき事項ということだ。
そんな俺は、煌びやかな電飾で飾られているチカチカして目が痛くなるような神殿の前に立っている。
この国では多少の例外もあるが16歳になると、神と契約するように定められている。
宣誓を行って神と契約すると、その契約内容に応じた異能力が扱えるようになる。
16歳の誕生日である今日、俺も他の16歳の奴と同じように神との契約を結ぶために神殿へと赴いたのだった。
この国で契約がしやすい神は7柱おり、
他にも細かい神ならば何柱もいるが、力が強い神の方が異能力も強い。 その分だけ信徒も多く異能力の強さも分散するが、それでもマイナーな神よりも基本7柱の神に宣誓した方が強い力が手に入る。
ここで手に入れる異能力によって、将来が左右されるので慎重に選ぶ必要がある。
俺は色々と考えた末に、
やはり、一番モテるのは正統派なキラキラした奴だろう。 近所のおっさんも光の信徒が一番モテると言っていた。
「それにしても、相変わらずアホみたいに照明ピッカピカ点けてて、悪趣味ッスねー。 どうせ信徒も頭ん中ピッカピカで神様も頭ん中ピッカピカなんだろうな。
像では若いイケメンになってるッスけど、本物はやっぱりピッカピカっぽいッスよね、頭とかが」
軽く考えながら中に入ると、頭が悪趣味な照明に照らされて頭がピッカピカなおっさんが待ち構えていた。
「おっす俺16歳。 今日は異能力を貰いに来たんスけど。 どうしたらいいッスか?」
「ああ、こんにちは。
手短に要件を伝えるとおっさんに連れられて神像の元に連れられる。
軽くおっさんに目配せをすると、頷いたので早速ではあるが儀式に取り掛かるとしよう。
以前から教えられてきた祈りの所作。 神像の元に跪き、赦しを請うかのように頭を下げる。
手順は簡単だ、祈って神様を呼び出し、宣誓を行い、神様からもらう聖餐を食べる。 そんなことで異能力が使えるようになるのだ。
聖餐というのは、神が信者に差し出す食物であり、その神の力を込められた食物を食すことによって契約が成立する。
「神よ、光を生み、光を統べ、光と共にある神よ。
その僕たる、このレイヴ=アーテルに宣誓の機会を与え給え」
俺は習った通りに儀礼の言葉を発する。
そういえば、なんて誓うか決めていなかった。 どうしよう、誓いの強さ、厳しさによって使える異能力の強さが変わるというのに。
そんな焦りは一瞬で消えた。
『断る』
「えっ、今日、聖餐もらうからと思ってお昼ごはん抜いてきたんだけど。
頼むから食べさせてッス」
『断る』
「なんで……?」
『悪趣味な神と契約してどうするつもりだ。 帰れ』
聞いていたらしい。 神様というのに器が小さい。
「…………」
『…………』
「…………うわーん! お前の加護なんて欲しくないッスよー!!」
「ハゲー、ピカピカー」と悪口を言い残しながら俺は神殿の扉を開け放って出て行った。
何故か案内してくれたおっさんが傷付いていた。 悪いことをしてしまったかもしれない。
舗装されている道にポツリとあった小石を蹴飛ばす。 いや、小石ではなく硬い皮に包まれた木の実のようだ。
なんでこんなところに、と考えながら拾い上げると、近くの家の上から「カア」と鳴き声が聞こえた。
そこにいたのは真白いカラス。 一瞬、人間に害なす存在である魔物かと思ったが、どうやら違うらしく、ただの珍しい白カラスのようである。
手元にある木の実とカラスを見比べて納得がいった。
馬車に轢かせることで木の実を割ろうとしていたのだろう。
賢く気の長いカラスだな、と考えながら手で殻を潰して中身を取り出す。
「ほいっスよー」
カラスに向かって木の実を投げ飛ばす。飛んで掴んでいくものかと思ったけれど、何故か飛ぶこともせずに跳ねて動いた。
不思議に思ってカラスの姿を見る。 片方の羽がない、白い羽もボロボロに荒れているようだ。
「……大丈夫ッス?」
カラスが答えるわけもないが、尋ねる。 当然返事などはなく、カラスがパクりと木の実を咥えた。
カチリとカラスは木の実を半分に突き割って、またトントンと跳ねて俺の元にきて、靴を突く。
「くれるんすか?」
手を出すと半分の木の実が渡される。 随分と賢いカラスである。
食うのは衛生的にあれだな。 などと思うが、せっかくもらった物を捨てるのはしのびなく、何よりカラスがジッとこちらを見ている。
カラスが残り半分を嘴を使って食べた。 仕方ないか、この程度なら腹を下すこともないだろうと、木の実を口に含む。
食えなくはないが、食感は固く、味はほんの少し甘いが苦い。 オマケに後味も舌に苦味が残るようで最悪である。
「ありがとッス。 美味かったッスよ」
そう言うと満足したのか、カラスはまた跳ねて何処かに移動する。
ふぅ、とため息を吐き出して、これからのことを考える。 結局、光の神からは異能力を与えられることはなかった。
別にそれほど拘りがあるわけではないが、親には散々色々と言ったので、このまま帰るのはどうにも格好が付かない。
将来……というか、暫く旅の用意をしてから、旅に出る予定なので、慣れるためにも今の内に異能力をもらっておきたい。 異能力なしで旅に出るなど、魔物に食われたいと言っているようなものである。
光の神が無理なら、闇の神か、刃の神がいいだろう。 あいつらはモテるって近所のおっさんが言ってた。
闇の神の異能力は光の神に近いので、それでもいいかと自身を納得させて闇の神殿に向かった。
◆◆◆◆◆◆
『断る』
「うわーん! お前の加護なんて欲しくないッスよー!」
「そこはかとなく感じられるロリコン臭!」と言い残しながら、泣きダッシュして、闇の神殿から抜け出した。
今度は悪口を言わないようにしていたのに、何が不満なのだろうか。
これだからロリコン(おそらく)は駄目なんだ。 俺はロリコンではなく歳下好きなだけだからセーフである。 ロリババアとかの偽ロリは認められないからセーフである。
小石を蹴飛ばしながら、刃の神殿である剣術道場に向かった。 昔から時々、お世話になっている神だし、今度こそ受け入れられるはずだ。
『断る』
「うわーん! 生涯独身のくせにー! お前の加護なんて欲しくないッスよー!
残念な美人さんめー!」
風の神。
『無理だよ』
「スカートめくりの変態の加護なんて欲しくないッスよー! いつもありがとー!」
水の神。
『いやなのじゃ』
「ロリババアは邪道ッスよ! 本物のロリにこそ本物のロリの精神が!』
火の神。
『燃やすぞ』
「うわーん! きょぬーに価値なんてないッスよ!」
土の神。
「……流石に土はないッス」
『うわーん! 俺もお前に加護なんて与えたくないからな!』
結局、どの神からも加護を与えられ、異能力を授けられることはなかった。
神に見放されて異能力が手に入らなかったなど、女手一つで俺を育ててくれた母親に申し訳が立たない。
現実問題としても、旅立つには異能力が必須である。 このままでは旅立って本懐を遂げることも難しい。
肩を落としながら、家に帰ろうと脚を向けると、号外だ号外だと騒いでいる人を見かける。
すぐに人溜まりが出来始める。
「今代の聖女様が、
都合良く号外の内容を言いふらす者が現れて、家に帰ろうと進めていた脚を止める。
金髪のチャラいにいちゃんの肩を掴み、尋ねた。
「今の話、本当か?」
おそらく号外の内容だろう。
金髪のにいちゃんの持っている号外をひったくり、聖女様の姿を映した写真を確認したあとで返して、号外を売り歩いているところに駆け寄る。
「おっちゃん、十部くれ、十部ッス!」
「はいよー、500Gだよ」
おっちゃんに金を渡して、号外を受け取る。
可愛らしい聖女様の写真を見て、息を吐き出す。 おそらく明日の日刊にも同じような内容が書かれるだろうが、使われる写真は別の物になる可能性が高い。
この号外は1部は読む用、8部は保存用にして……1部は実用にしよう。
サラサラとした金の長髪に、しっかりとした意思を感じさせる顔つき、子供らしさも残るかんばせは嬉しそうに口角を上げていて可愛らしい。 何より、細身なのにおっぱいがおっぱいおっぱいしている。 男として何か堪らないものがある。
正直な話、俺は聖女様のファンだった。
なんというか、もう堪らない。 超可愛い。 結婚したい。
それにしても、この歳で神様の声を聞くとか、凄いことだ。 もしかしたら神の言葉を聞いた事にすることで、政略的な何かがあるのかもしれないが。
路地裏の人が少ないところに入ってから一部開く。 とっても可愛い……ではなく、内容である。
聖女様の聞いた神の言葉が大きく書かれていた。
『わしの像はもっとグラマーでセクシーにするのじゃ!』
間違いなく
大量の号外を持って、鼻歌を歌いながら機嫌良く家に帰った。
◆◇◆◇◆◇
「うああああああああああ!!!!」
パチリ、パチリと紙が燃える音が聞こえる。
「聖女様ああああ!! 俺の聖女様がああ!!」
勢いよく燃えていく新聞を掴み、火を払おうとするが燃える勢いは増すばかりだ。 涙を垂らすが、それが消火の役に立つわけがなく、聖女様の笑みは炎の中に消えていく。
「ごめんねレイヴ。 これも貴方のためなの……」
薄く唇をあげて、俺と同じ黒い眼を細めて笑う。
母親は燃えて炭となった新聞に脚を踏み下ろしてぐりぐりと踏みにじった。 見るところが見れば大問題である。
明確に怒っている。 というか、キレている。
「……お母さんはね。 貴方のことを応援してあげたいと思ってるの。
旅人になってもいい。 冒険家になるのも否定しない。
けどね、成人して神様と契約しにいったはずの息子が、
俺の涙を気にする様子もなく、母親は舌打ちをする。 元お嬢様とは思えないような態度の悪さだ。
「いや、それは神に断られたからであって俺が好きでしたわけでも……」
「まず契約を断られるのがダメなの、よほどの悪人でも契約出来るというのに」
そう言われても。
「いいから、契約して来なさい。 色々な神様の元に行けば、幾らレイヴでも契約してくれる神様ぐらいいるでしょう。 分かった?」
「脚が疲れたッス」
家から放り出された。
痛む尻を抑えながら、立ち上がる。
「かあ」
何故かさっきのカラスがいたので触ろうと手を伸ばす。 逃げる様子もなく、俺の手が受け入れられる。
野生の上に怪我だらけのカラス、けれど存外に触り心地は悪くなく、サラサラふわふわとしている。
「着いてきたのか? ……そんなわけないッスか」
そんな自分を軽く笑うが、その言葉を認めるようにカラスを撫でていた手にカラスが頭をスリスリとする。 心地良さそうに「かあ」と一鳴き。
鳥が好きという訳ではないが、可愛らしい。
「俺んちくるか? いや、すぐに旅立つから、一緒に旅をしよう」
カラスは返事をするように一鳴きする。 手を差し出すとその上に乗ったので、持ち上げて頭の上に乗せる。
「じゃあ、とりあえず神と契約するッスよ!」
「かあ」
このカラス、テンション低いな。
頭の上にちょっとした重みを感じながら、疲れた足を動かす。 とりあえず、近場の神様に会いに行けばいいか。
「頑張るッスよ!」
「がんばれ」
ん? 何処からか鈴を転がすような高い声が聞こえたが、周りを見渡しても姿は見えなかった。 女の子にモテたすぎて幻聴が聞こえ始めたのかもしれない。
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