水神ラークの旅
ika男
第0話
僕はもともと何者でも無かった。
自ら志願しなければこのまま緩やかな時の流れをすごしていただろう。
みんなは神様と崇め、信仰しているけれど...僕はただ見て、観察して、ほんの少し世界をいじる程度の仕事しかしない。面倒なわけじゃないんだ、ただ干渉しすぎると良くない事が起きる。
だから水の中で溺れている動物が居ても何もしない。
広大な海が大きくうねり、大地まで飲み込もうとも達観しているだけ。
ずっとながめていると、"人間"という動物が生まれた。最初は何の興味も無かったんだけれど僕以外の他の神達がえらく気に入っていて、火の使い方まで教えてたんだ。
火だけじゃなくて知識や道具の使い方、さらには僕達みんなで話し合って精霊の力と魔法を行使する許可まで下りてしまってね。ぼくはねむかったから適当にうなずいてたんだ。
ある時、人間の女の子が崖から海の中に飛び込むのが見えた。その子はすごく僕の事を恨んでた。僕を恨む動物なんて今までに数え切れないほど居たけれど、僕はなぜかその子に惹かれたんだ。
僕が僕であると認識してから初めて地上に降り立った。
「ねえ、君は何で自分から溺れようとしてるの?」
彼女は凄く驚いた顔をしていた。水中でいきなり声がしたからかな。でも彼女はとても賢い子ですぐに状況を理解して僕に返事をしてくれた。
「戦争があるんです。わたしは戦う為に生まれたのに...昨日、属性を調べたら『水』でした。水の子は戦いには向いておらず今までの訓練が全て無駄になったのです。両親や親戚から忌み嫌われ、もうどこにも行けません。だから...」
僕はとても悲しくなった。自分の水を否定されたからではなくて、どこにも居場所が無くなった彼女は、批判された周りに怒りを覚えるのでは無く無力な自分を恨んでいたこと。
水属性ということは僕の子供のようなものだ、そんな彼女に今までで初めて同情の念を抱いた。
どれだけ悲しくても僕は何も干渉出来ない。本当は助けたいけれどそんな事をすれば全てが壊れてしまう。
彼女はそのままゆっくりと死を迎えた。僕に出来る事は、苦しまないようにと優しく抱いてあげることだけだった。
そのときに僕は決意した。人間に生まれ変わると。
周りの仲間達は目を見開き、どうしたんだと止めるものや、はたまた笑い転げてひっくり返るやつもいた、みんなしてそんなに驚かなくてもいいじゃないか....。
ただ、最終の許可を出すのは僕たちの父だ。
父さんは真剣に考えてくれて結果、許可が出た。引きこもりニートのお前がやる気を出してくれたと感動してくれた。よくわかんないけど喜んでくれてなにより!
じゃあね、みんな、また何年後かに。
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