ホーンテッド・ハイスクール

岩井喬

第1話◎

 中庭に通じるドアが、すごい勢いで蹴り開けられた。同時に俺を狙ったのは、特殊な形状をした自動小銃。俺の意識は一瞬、その銃口に引きつけられた。


「動くな!!」


 俺は冷静に、と自分に言い聞かせながら、相手を見つめる。声や肩幅から、自分と同じ年頃の女性と判断した。

 普通なら、慌てて両手を上げて命乞いをするところだろう。だが、残念ながら今は『普通』ではなかった。

 今この中庭には、俺と、俺に銃を突きつける少女以外に、もう一人の人物がいる。

 戦闘少女は俺に再び『動くな!』と念押ししてから、もう一人、俺の前方五メートルほどのところに立っている『彼女』に銃口を向けた。そして、驚愕の表情を浮かべて僅かに銃口を下げた。


「な、何をしてるんだ貴様!?」


 驚くのも無理はないだろう。何せ『彼女』は一糸纏わぬ、簡単に言えば素っ裸で、その場に立っていたのだから。

 俺は必死に傷口を押さえた。無論、撃たれたからではない。鼻血だ。

 そんな俺を横目に、戦闘少女の方は、ひどく狼狽しているようだ。


「こ、ここっ、こんな場所で、何て格好をしてるんだ、お前!?」


 しかし、『彼女』は軽く首を傾げるくらいで、その場から動こうとはしない。足元には、するり、と脱ぎ捨てられたメイド服と下着がある。


「説明しろ!!」

「ひっ!」


 再び俺に銃口を向ける戦闘少女。ヘルメットのバイザー越しではあったが、少女の目が見開かれていくのが俺には見えた。そして、戦闘少女は眉間に皺を寄せながら問うた。


「お前……。男か?」


 慌てて首を縦に振る。撃たれるかもしれないが、嘘をつくよりはマシだろう。


「だったらどうしてお前までそんな格好をしている!?」

「い、いや、俺だって好きで着ているわけじゃない!!」


 そう。俺も『彼女』も、メイド服姿だったのだ。しかし、それを言うならこちらにだって言い分がある。


「お前、サバゲー部の奴だな? 嫌に動きがキビキビしてるが、そんな大層なモデルガンで俺を狙うのは止めてくれ!」

「モデルガン、だと!?」


 戦闘少女は、右肩から左腰に自動小銃のベルトをかけながら近づいてきた。


「その言葉は聞き捨てならん! 我々の火力を馬鹿にするな!」

「じゃ、じゃあそのへんにでも撃ってみろよ!」

「それではこの銃が本物かどうか、証明できない!」


 ……はい?


「こいつは、魔術系の化け物退治用に作られた特注品だ。化け物が現れないことには、効果を見せつけられない!」

「ば、化け物?」

「そうだ。厳密には――」


 朗々と言葉を紡ぎだす戦闘少女。真っ直ぐ彼女を見ていればいいのだろうが、生憎俺も視界の端が気になって仕方がなかった。


「お、おい、どうやったかは訊かないが、元通りに服を着直してくれ。頼むよ一之宮……」


 俺、荒木修一は、心から切実にそう願う。銃口がこちらに向いていなければ、拝み倒してでもちゃんと服を着てほしいと土下座するところだ。


 一之宮葉子は、本当に変な奴だった。が、それを語るには三ヶ月前――俺たちがこの堅山黎明高校に入学した時のことまで遡らねばならない。

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