第18話○桜


 ケアマネ事務所に異動する前に勤めていた系列デイサービスの前に、桜がたくさん咲く都立公園があった。


 お花見の時期には公園内の大通りに毎年出店も出ていたので、わりと有名なお花見スポットになっていた。

 年々出店の数も増えて、定番の粉ものだけでなく様々なご当地グルメ、ヨーヨーや人形すくいのお店もあって、子供やお年寄りまで色んな人で賑わっていた。


 デイサービスの方に勤めていた頃は、たまにこの公園に来ることがあった。

 春以外にも利用者さんとお散歩をしたり、売店のメロンパンを買ってみんなで食べたり……  

 私は、この公園に来るのが好きだった。


 今年の桜は特に綺麗だったので、デイサービスとケアマネ事務所の職員みんなでお花見をすることになった。


 風に舞う花びらのピンクと空の青さは、表現しきれない程美しくて、景色だけで泣けてくる気がした。

 私は太陽に手を伸ばしながら、空を見上げて言った。


「私、この公園の桜が好きなんだ~また一緒に見れるといいねっ……約束だよ?」


 私はなぜか、これが最後のお花見になると分かっていた。


 彼が代表で飲み物などを買ってくることになったが、桜に見とれてうっかりしていたら私だけ頼みそびれてしまった。


(ジンジャーエール……飲みたかったな……)


「お前はどうせこれだろ?」


 ボーッとしていた私の頬に突然、ジュースをぶっきらぼうに当ててくる。


「わ~コレが飲みたかったのありがとう~~~っでもお前って言うなー!」


 兄弟喧嘩のようなやり取りをして周りに笑われるのが楽しかった。


 笑っている間は、このまま彼といる時間がずっと続くような気がしていた……

 あの時までは……

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