第14話○薬


 初めて仕事中に泣いてしまった次の日。

 私は朝から具合が悪く、月のものによる激しい腹痛と貧血でとても仕事ができる状態ではなかったので早退することにした。


 そんな最悪な体調と気分だった帰り際のこと……

 偶然すれ違った彼の前で、たまたま軽く咳き込んだら、「うつすなよ」としかめっ面をされた。


(風邪じゃないわい!! 弱ってる時にまでひどいこと言わなくてもいいじゃん!)

 ……と反撃したいところだったが、言い返す元気もなかったのでフラフラになりながらもなんとか家に帰った。


 次の日の夜のこと。

 朝から普通に出勤し、残業で偶然彼も私も残っていたので……

(元気になったついでに今日こそ昨日言いたかったことを言ってやる~)と息巻いて私は言った。


「私のこと嫌いなのは分かってるけど、具合が悪い時にまで意地悪言わないでよ!」


(どうせまたもっと冷たい言葉で言い返してくるんだろう……)と思っていた私に、彼は予想もしなかったことを言った。


「…………あのなぁ……っ心配してないわけないだろ!!  具合が悪いんだったら俺に言え!  薬持ってたんだから……」


 赤面しながらそう叫んだ彼の発言に、私は拍子抜けし過ぎて思わず変な声が出た。


「へ?……心配してくれてたの?」


「……しかも風邪じゃないって分かってた?……なんで?」


「…………そろそろかなって……あと雰囲気で分かる」


(なんで周期知ってんだよ)とツッコミたかったが、急に恥ずかしくなって普段はあまり出したことのない声で言った。


「心配してくれてありがと……」


 帰り道、彼の意外な優しさと今までの言動が正反対過ぎて……思い出し笑いが止まらなかった。

(これが俗に言うツンデレってやつか……)


 そう言えば最近の残業中、仕事が終わっても彼が携帯ゲームをして残っている日が多かった。

「帰らないの?」と聞いても無視されていたので、(よっぽどゲームが好きなんだな)と思っていた。

 私としては例のメールのこともあり、事務所にいてくれるだけで安心だったが……

(彼なりに心配してくれていたのかも……)と思うと心の中がポカポカした。

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