軌道上自衛隊
ふだはる
序章
近未来。
地球の軌道上にはオービタルリング建設の足掛かりとして軌道ロープウェイ設置が終了していた。
赤道の遥か上空に地球を囲む様に三十六基の衛星が、静止軌道に打ち上げらてカーボンナノチューブ製のワイヤーによって繋がれている。
バラストを同種のワイヤーによって外宇宙に向けて接続している各種衛星は、その遠心力によって生まれる衛星同士を繋げたワイヤーの張力で安定した姿勢を維持していた。
そして衛星からは地上に向けてもワイヤーが伸びており、赤道上の地上基地あるいは海上基地に接続され、地球上の各基地を通す様にリニア交通機関が運行していた。
そのワイヤーロープを伝ってゴンドラが、地平と垂直に地球と宇宙を往来して、資材と人間とを大気圏外へと運んでいる。
しかし巨大なオービタルリング建設の為の資材は、地球からの採掘では足りず、人類は資源を求めて軌道ロープウェイを足場にして月面へと踏み出していた。
月面の資源採掘競争は、主に米中露間で対立していた。
彼らは月面に各々の基地を置いて多量のレアメタルを含有している土地の所有権を主張している。
米国はアポロ計画によって月に辿り着いた実績を元に主張し、ロシアは米国の実績そのものが虚偽であり、アポロ計画では人類は月に到達しておらず、先に衛星を打ち上げて宇宙に達した自分達に天体全ての資源の所有権があると主張。
中国に至っては地上から最初に月を発見したのが古代中国人だから中国に所有権があるという説を大真面目に主張していた。
また米国では過去に独自に月の土地を販売していた組織や団体があった事もあり、それらから購入した個人が所有権を主張して裁判を起こす事態にも発展している。
人類の縄張り争いは、月にも拡張されようとしていた。
その様な世界において国際宇宙ステーションは、その役割をほぼ終えている存在になる筈だった。
しかし、以前から近隣諸国の核ミサイルの脅威に晒されていた日本が、この国際宇宙ステーションを日本版SDI構想の要として他の国々から格安で買い取る事を決定する。
非核三原則の為に核武装を許されない日本は、大量破壊兵器の所持も憲法で許されてはいないので、米露の様な小型ブラックホール爆弾の開発も行えず、迎撃能力の特化という方向に舵を切らざるを得なかった。
国際宇宙ステーションは国内主要メーカーにより改修工事がなされた。
主武装にレールガンを一門。
この主武装が敵性国家のミサイルを成層圏で撃ち落とす為に使用される。
副武装に小型ミサイル数十発を装備。
ステーションへの攻撃を行ってくる軍事衛星などや、それらが発射したミサイルなどへの迎撃用である。
その他、レールガン用の電力を賄う蓄電システム、射撃管制装置、対EMP用特殊外装甲などが新たに追加された。
そして陸海空に分けられた自衛隊に新たな部隊が誕生する。
軌道上自衛隊。
改修が完了した国際宇宙ステーションに駐留して有事の際に敵性国家のミサイルを迎撃する事を、その任務として新設された。
宇宙実験棟の役割を終えた国際宇宙ステーションの近未来の姿は、さながら宇宙に浮ぶ無骨な要塞の様だった。
それは新しい冷戦時代の幕開けを象徴するかの様に、人類の新たなフロンティアへの希望に仇をなすかの様に、空の上の遙か遠い軌道上に存在していた。
まるで地球を眺めながら嘲笑っているかの様に……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます