第14話4.カレーパンとたこ焼き…そしてクレープ?
シャワーを浴びてまだ乾ききらない髪を潮風になびかせ、私達二人はいつもの防波堤に来ていた。
急遽夜勤になったお母さんの仮眠を邪魔しない様に、静かに家を出て来た。
「んー気持ちいいねぇ」
思いっきり腕を上に伸ばして背伸びをする和ちゃん。
「ねぇ巳美、あなた意外と胸あったのね」
「意外とは何よ」
防波堤の上から広がる海を眺めながら和ちゃんが言った。
「だって見た目ない様に見えるんだもん。それなのにDのわたしにブラぴったりなんだもん」
そうかなぁ、私ってそんなに胸ない様に見えるのかなぁ。
和ちゃんは強調し過ぎの体系なのがいけないんだ。
「私って損してる?」
「うん、とっても」
はぁ、とため息が出た。性格も体系も損しているなんて。やっぱ私って不幸の子なのかもしれない。
「でもさぁ、巳美って背高いじゃん。羨ましいなぁ。全体的に均等が取れていると思うよ、ス・タ・イ・ル」
んー後に言われるとなんだか弁解の様にも聞こえるんだけど……でも許してやろう。だって和ちゃんが言うんだもん。
「ありがと」って微笑んで和ちゃんに言った。
キキッと自転車のブレーキの音がした。後ろを見ると、和也が変な顔をして私たちを見つめていた。
「お前ら何やってんだ」配達用の自転車にまたがりながら和也は私たちに向けて言う。
「まったく、最初に出る言葉ってそうなの和也。
初めて無断欠席した巳美に言う言葉?「大丈夫か」とかない訳」
和ちゃんがちょっとムッとしながら和也に言う。
「ああ、ええっと、蒔野、だ、大丈夫か……」
ちょっと照れ臭そうに言う和也のその姿を見て
「うん大丈夫」と答えた。
「てか、富塚、何でまたいきなり名前で呼ぶんだよ」誤魔化すように和也は和ちゃんに矛先を変えた。
ああ、地雷踏んじゃった。
「さぁて、どうしてかなぁ」と私に抱き着いてほっぺにキスをした。
いきなりだったから驚いて「キャッ」と思わず言ってしまった。
そして
「告白しまーーす。私巳美の事好きなの。
愛してるの。だからあなた和也とはライバル。
私から巳美奪われたくなかったらせいぜい頑張なさい。か・ず・や」
と、和ちゃんの潤んだ目が私の目をじっと見つめている……も、もしかして、
そう思った瞬間私の唇に物凄くやわらかい和ちゃんの唇が重なった。
いきなりだった、しかも……フレンチじゃない、ディープなキス。
「お、おい。な、なにやってんだ和美」
慌てて自転車から降りてこっちに駆け寄る。自転車がガチャンと倒れる音がした。
それでも和ちゃんの唇は私から離れない。
和也は防波堤に上ることなくただ私たちを下からぼうーと眺めていた。
ようやく私の唇から和ちゃんが離れた時私の頭の中はもう真っ白で何も考えることが出来ない状態。
下から私たちを眺める和也の顔を見た途端急に胸の鼓動が高鳴って、全身が物凄く熱くなった。
「ふふふ、見たか和也。私の巳美を思う気持ちは本物なのだ。それにあなたとの事もう巳美に話しちゃったし」
「本当か、それ」
私は和也を見て「うん」と頷いた。
「そうか……」ちょっと下を見て言う。
少し寂しそうな和也の顔が目に入った。
「なぁ、蒔野。明日のお祭り、五時にここで俺、待ってるから……その、一緒に花火見ないか」
少し困惑した表情で和也は私をお祭りに誘ってくれた。
和ちゃんがそっと私の肩に手を添えて微笑んでくれている。
「うん」と和也に返す。
「私も一緒じゃダメ?」
「仕方がないなぁ。和美は俺らの邪魔すんなよ」
「さぁ、それはどうかな。なにせ私は和也とは恋敵なんだもん」
そんな
和ちゃんの目には薄っすらと涙がにじんでいた。
「ドーン」と花火が打ちあがる。
打ち上げ場所は海岸。
だから花火は海の上に花開く。
まるで海の上から花火が打ち上げられているかのように
何度も華を咲かせ、そして散っていく。
何発もの花火が同時に打ちあがる。
青、赤、黄色、緑、何色もの色が海の上にその華麗な姿が描かれた。
空に、そして海に……その色は映しだされる。まるで鏡に映されるているかのように。
その光は私の胸元に輝くペンダントを輝かせた。
和也が私にくれたプレゼント。それはひし形のプレートに小さなサファイアが散りばめられたペンダント。
花火の色の様にピンク、イエロー、グリーン。そしてブルー。
まるで私の胸に花火が散りばめられた様なデザインだった。
「ねぇ和也、これ物凄く高かったんじゃない」
「そ、そんな事ねぇよ。安もん、俺にそんなぁ高いもん買える訳ねぇだろ」
和也は照れ臭そうにそう言っていたけど……でも大切な贈り物。私の本当に大切なプレゼントだ。
和也の気持がこめられた大切なプレゼント。そしてこれを見た立ててくれた和ちゃんの気持も込めて。
「ありがとう」と私は胸の中で言った。
「ねぇねぇ、お腹すかない」
私たちの一歩後をゆっくり歩いている和ちゃんがぼっそりと言った。
防波堤に私が行くと和也はもうだいぶ前から待っていた様だった。
五時って言ったのは和也のはずなんだけど、三十分前に来た私を今か遅しと待ち構えていた。
遠巻きにその和也の姿を黙ってみていたけど、一人でぶつくさ言っている。
そして何だろうあのぎこちない動き方は。
ああ、もしかしてプレゼント渡すのにどうしたらいいのか予行練習してるんだ。
そう思うとものすごく面白くてちょっとその姿を見ていた。
あんまりじらすのもかわいそうだったから
「そろそろ行きますか」と和也の方に足を向けた。
ゆっくりと、いつもと違う装いを崩さない様に。
今日のためにお母さんが浴衣を用意してくれていた。何も知らなかった。
昨日の夜和ちゃんと一緒に夜を過ごした。
ずっといろんな話をしていた。なんだろうこんなに話をした事ないくらいなんでも話し合えた。
防波堤でのキスの事。
あれは和ちゃんが私に見せた和也への想いを断ち切るための儀式だったんだって。
でも半分は本当だよ。って付け加えられた時は私も和ちゃんなら受け入れられると本気で思った。
女同士でキスするのは初めてだったけど、でもそれが和ちゃんならキス以上でも受け入れてもいいと思うくらい、
なんだか私も別な恋心を抱いてしまったようだ。
「それじゃ巳美のバージン頂いちゃってもいい?」
「え、」思わず躊躇したがすでに遅かった。また和ちゃんの唇と私の唇が重なった。
ゆっくりとそしてあの時よりも濃厚だった。
次第に力が抜けて少しこわばった体が熱くなるのを感じる。
「ねぇ和ちゃんってもう経験してるの?」
「どうして?」
「だって……和也よりキス上手いんだもん」
「あははは、そうぉ」
「やっぱり……和也とそのぉ……なのかなぁ」
和ちゃんは少し黙って天井を見つめた。
そして静かに話し始めた。
「巳美、私、あなたにまだ隠してる事あるの。
これは多分本当は言っちゃいけない事だと思う。
隠し通さなきゃいけない事。
でも、巳美には言わないといけないみたい。
そうしないと私が自分の事許せないから……」
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