episode1-1
屋上からは、揺れる木の枝が下に見える。枝に残る葉も茶色になって、枚数も減って、木の根元まで見えるようになってきた。手に触れる風は随分冷たい。
十一月半ば、もう高三の冬が来る。高校生活の未練もやっと感じ始めた。
夏までは大学受験へ向けその他多くの煩悩を見ぬふりをしてきた。たくさんの大人に支えられながら、たくさんの大人たちにせっせと背中を押されていつになく慌ただしい夏が終わったと思ったら、もう秋も終わろうという。ここ数週間はいつの間にか終わっているし、今日はもう週を折り返す木曜日だ。よく考えれば、今年全体が異様に時の進みが早かったような気がする。
去年の今頃から、卒業後にどうするなどと話題が学校でも家でも飛び交って、それにつられて私も考えた。女子校だからか、私にそんなつもりがあまりなかったからか、恋愛事は我が身にはなく、とりあえず自分で勝手に考えられた。
これまで、少しでも偏差値の高い高等学校に進学し、少しでも偏差値の高い大学へ進学し、少しでもいわゆるハイキャリアな業種へ就職して、それが漠然と"良い"人生と思ってきた。誰に言われるまでもなく、己からそう思ったようなきがする。
ただ、自分も少しながら歳を取り、少しばかり社会を知ってしまったせいで、それが揺らいだ。ほんとにそれが良いのか?よく云われることに、人生はやりたいことをやりなさい、とか、好きなことをやれることが幸せだよ、などあり、一方で、何をするにもお金がないとね、とも云われる。どんなことをすれば幸せなのだろう。
そんなことを考えるうちに、自分のやってることに集中できなってきた。イメージできない未来に対して、何かを期待して、大学受験をすることになる。多分、無駄になる経験は無いだろうが、それされもどこかはっきりとしないレベルでそれを疑い、私の歩みを鈍らせる。
普段の授業は、もうそういう時期とあって、どこか気の張り詰めた雰囲気が濃くなってきた。いまの自分が乗り遅れているような気もしてくる。確かに受験的には集中するほうがよいのだから遅れているわけなのだが。ただ、教員の話は相変わらずつまらない。ノートは取らずシャープペンシルも机に転がしたまま、手に顎を乗せて聞く。受験生あるまじ態度、と自分でも思う。
十月頃から今日のように昼休みには屋上に来て、雨の日は傘を差して、風に吹かれて満足したつもりになっては教室に戻ることを繰り返すようになった。特に何があるわけでもないのだけれど、やはり屋上になにか特別な感じがするのは、高校生の特権だろう。
「ああ、なにやってるんだろうな、私」
つい言葉が口を衝いて出てしまって内心驚くも、周りを見ても人影はなかった。
周りに人がいないと分かれば、なんとなく少し雲に手を伸ばしてみたくなった。そろそろ届くんじゃないかな、そんなことも思った。今までは来てもぼうっとしたり考え事したりするか、あまり面白くないSNSをスマホで覗いて、チャイムがなるまで時間を使ったりしていた。
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