俺の姉は.....。
田城潤
プロローグ 優等生の姉
俺の名前は五十嵐 タクト、なんの取得もないただただ平凡な男子高校生
……だと良かったのだが、現実はそんなに甘くない。
成績は最底辺、素行は悪く(先生談)、目つきも悪い。
そんな最低最悪なハットトリックを決めてしまった日には誰しも泣きたくなるだろう。
中肉中背で、少し長めの髪と親譲である純日本人バリの黒目、ここまで言うと清々しいほど平凡なルックスを想像するだろうが、
二度も言う、世の中そんなに甘くない。
俺の特徴を代表してひとつ挙げるとすれば、それはここいらでは悪目立ちの原因にしかならない、色素の薄い銀色の髪だ。
そんな俺はその特徴と目つきの悪さ、そして素行の悪さと、ただ単に頭が悪いという事実も相まってか、周りから不良生という烙印を押されてしまっている。
……しかしだ、俺がこんな不名誉な烙印を押されるまでに至ったのには少なからずある一人の存在が関係している。
「全く、タクトはもう少し高校生としての自覚というものが無いの?」
そんな風に俺を貶す言葉が背後から聞こえる、この声の持ち主こそ、そのある一人の存在だ。
「うるせぇな、姉ちゃん」
突き放すかのような乱暴な声で目の前のソイツを睨みつける。
ソイツの名前は五十嵐 カザネ、俺の通う私立十河高校の生徒会長であり、俺の実の姉、容姿端麗、才色兼備、質実剛健、そんな四文字熟語で、ハットトリックをかましてしまうほどの超人こそ、俺の倒すべき敵だ。
きめ細やかな銀色の髪に、病的なまでに白い肌、そして特筆すべきは、俺とは違う眩いほどの青色の瞳。
この姉は世間一般で言う美少女の類に分類される、対して俺は髪が銀色で目つきの悪い不良生。
神よ、これはあまりにも理不尽では無いでしょうか?
そんな俺の問いかけに神は答えてくれるはずもなく、代わりに姉の説教が始まった。
「タクト、実の姉に対してその言葉使いはよしなさい? 大体タクトはやれば出来るのにやらない、それどころかやる気すら微塵もない、そして素行も悪いと来てる、これじゃタクトの評判がますます下がるだけよ?」
俺の評判が下がる。
確かに俺にとってそれはマイナス要因である。だがしかし、それと同じくプラス要因でもあるのだ。
何せ、現在の俺のただ一つの欲求、それは
……この優等生の姉を陥れる、という事なのだから。
弟の評判が下がり、ドミノ式に姉の評判が下がる=プラマイゼロ、そんな事を考えながら頭の中でほくそ笑む俺は、目の前の姉に今朝見た少年漫画のワンシーンにあるセリフを吐く。
「俺の生き様は……」
「さっさと反省!!」
「はい!!」
そんな、傍から見ると只の仲良し姉弟のちょっとした喧嘩にしか見えない会話をしながら放課後の廊下を姉と歩く。
ともかく、だ。俺はこの完璧超人の姉が嫌いだ。
中学生時代にはソコソコの成績と、ソコソコの素行で、髪の毛は銀色だがそれを抜けばソコソコ普通の生徒であった俺なのだが、そんな俺でも必死に頑張ったのだ。
授業中は誰よりも真面目に取り組み、率先して先生の手伝いをしたりもした。
全ては、昔は敵ではなく目標だった姉に近づくため、しかし、ある日を境に俺は努力
……いや、悪足掻きを止めた。
きっかけは本当に些細な事、なんて事無い姉との会話だった。
それはテスト勉強のやり方に詰まって姉に教えを求めた時のことである。
『テスト勉強? そんなの授業をしっかりしていれば必要無いと思うけれど?』
『…………』
……お分かりいただけだろうか?
要は自覚したのである。
五十嵐 カザネは天才で、五十嵐 タクトは凡人なのだと。
しかしだ、そんな凡人の中の凡人、ドが付くほどの凡人である俺でもまだ目標があった、いや、目標と言うよりも野望だろうか。
「一人で帰るから付いてこないでくれ」
俺がそう言うと、姉は立ち止まって表情を少し強ばらせ、「そう」とだけ告げ、振り返ってどこかへ歩いていった。
「……これ傍から見れば只の反抗期の弟だよな?」
そんな事をボヤきながら姉と別の方向へと俺は歩き、鞄と劣等感を背負い直しながら帰路へと着くのであった。
××××××××××
家に着いた俺は、真っ先にリビングのソファに飛び込む、こうすることでやっと学校が終わったという実感が湧いてくるからだ。
大きなため息を付いたあと、突然眠気が俺を襲い、気づけばそのまま制服のままソファーで眠っていた。
次に目が覚め、寝ぼけ眼のままスマホを見ると、帰宅してから凡そ一時間ほど経っている事に気がつく。
ふと、腹の方に目をやると俺の体には女子用のブレザーが掛けられていた、こんな事をする奴は姉しか居ない。
恐らくは、風邪を引かないようにと姉が親切心で掛けてくれたのだろう。
「……はぁ、お節介焼きやがって」
そう言って姉のブレザーの端を摘み、持ち上げる。十河高校の制服は白を貴重としたブレザーで、有名デザイナーがデザインしたブレザー何だとか、そんなブレザーからは心地のいい匂いがする、所謂女の子特有の香りという奴なのだろう。
……そして気がつけば、俺は姉のブレザーに顔を突っ込んでいた。
「ってバカか俺は!」
これは事故だ、多分まだ寝ぼけているのだろう、そう言って自分に言い聞かせ、姉のブレザーを綺麗に畳んでテーブルの上に置く。
「つか、姉ちゃんもう帰ってんだよな?」
ふとリビングを見回すもそこに姉の姿は無い、とすると恐らく自分の部屋にいるのだろう。
少し冷静になると、まだ自分が制服のままということに気づき、着替えるために二階にある自室へと向かう。
階段を登りきってすぐ左側にある扉が俺の自室である、そして、勿論自分の部屋なのだからノックもせずに堂々と部屋に入る。
だからだろう、突如目に入った目の前の光景に、俺は目を丸くしていた。
「すぅーはーすぅーはー、……ウフフ、たっくんの臭い……」
バタン!
おっといけない、まだ寝ぼけているようだな。そうでなければ説明がつかない、だってあの姉が俺のベットに倒れ込んで枕の臭いを嗅いでいるはずなど絶対に無いのだから。
落ち着けタクト、さっさと目を覚ますんだ。
数回深呼吸して自分を落ち着けた後、俺は何故か自室の扉をノックし、中に誰もいない事を確認した後、恐る恐る中を伺う。
「……いない、……やっぱりまだ寝ぼけてたんだな」
中には勿論誰もいなかった。
HAHA! そりゃそうだ! 何たってここは俺の部屋だし? 何かベットの毛布がやけにこんもりしてる気がするけど何かの間違いだよね!
ガバッ!
俺はやけにこんもりしてる毛布をベットから引きはがす、すると……
「ご、誤解なの!!」
なんと驚き、中から出てきたのは見たことも無い程真っ赤な顔をした俺の姉である五十嵐 カザネだった。
……でしょうね。
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