第465日「ずっと、わたしといっしょにいてくれますか?」
# # #
まはるん♪:せーんぱい
まはるん♪:メリークリスマース🎄!
井口慶太 :おう
井口慶太 :めりくり
まはるん♪:はい、めりくりです
時計の針が、真上を指して。
今年もやってきた。12月25日。クリスマス。聖夜。降誕祭。聖誕節。ノエル。
世間的にも、そして俺と後輩ちゃんの間的にも、一大イベントの日だ。
なんてったって、ねえ。
正式に「恋人関係」ということになってから、1年だもん。
まはるん♪:せっかくなので
まはるん♪:クリスマスデートしましょ
井口慶太 :前から予定空けろって言ってたじゃんか
まはるん♪:でもちゃんとは言ってなかったので
井口慶太 :はいはい
……早めに寝よっと。
# # #
少し、布団が軽くなったような気がして、目が覚めた。
なんか、普段俺の部屋ではしないけど、でも嗅ぎ慣れた、甘いふわっとしたにおいを感じる気がする。
いやー、布団最高。暖かい。永遠にくるまっていられる。
このままぼーっと……って、ダメだ。
起きないと。
今日はクリスマスだ。大事な日なんだ。
まだ重いまぶたをこじ開ける。横を向いているから、てっきり部屋の中が見えると思ったんだけれど。
「ふふっ」
何か、かわいい顔が見えた気がする。
「おはようございます」
「まはる……?」
自分の口から出た言葉が、思ったよりふにゃんとしていて驚いた。
「はいはい、せんぱいのまはるちゃんですよー」
なんていって頭を撫でてくるものだから、たまには甘えたくなってしまって。
んー、と声にならない声を出して、彼女の手のひらに頭を擦り付ける。
「……あの、なんでこんなにかわいいんですか、せんぱい」
「かわいくない」
「かわいいです」
「まはるの方がかわいい」
「……ありがとうございます」
まだ思考が回ってないけど、何か変なこと言っちゃっただろうか。
「せんぱい」
「んー」
まだ眠いんだ。頭撫でてもらえるの心地いいし。寝落ちそう。
「せ・ん・ぱ・い! 朝ですよ!」
語調は強くても、怒ってる風じゃないし、何より後輩ちゃんの声だし、落ち着いてしまう。
「もう……甘えん坊なんですから……」
隣で、彼女が身じろぎするのを感じた。
「ほら、おはようございます!」
額に少し湿った暖かい感触を感じて、完全に目が覚めた。いや、何してんのまはるさん。まだ朝っすよ?
「俺は王女様かよ」
「男女が逆ですね、おはようございます」
「おはよう……なんでいるの? 俺寝坊?」
窓の外は明るくなっているけど、時計は……まだ8時じゃんかよ。眠いわけだ。
「えっと、その……せんぱいと早く会いたかったので」
「はあ」
「いいでしょ?」
笑顔で首を傾げながらそんなことを言われては、俺も文句は言えない。
「で、なんで俺の布団に潜り込んでるんだい」
「せんぱいがすやすや眠ってるので」
「で、なんで俺に抱きつこうとしてるんだい」
「せんぱいがようやくお目覚めになったので」
「それ理由になってる?」
「せんぱいがだいすきなので」
こういう時ばっかりど真ん中のど直球を投げてくるのはずるいと思うんだ。ほんと。
やり込められてばかりも嫌なので、無言のまま彼女の背中に手を回して、そのままぐっと引き寄せた。
「……んっ!」
いきなり抱き寄せられるなんて思っていなかったようで、後輩ちゃんが声にならない驚きの声を上げる。
「俺も、大好き」
布団の中で抱き合うのは、はじめてだった。甘い香りが、もっと強くなる。
暖かい、でも華奢な彼女の体を、折ってしまわないように、でも精一杯の力で、ぎゅぎゅーっと抱き締める。
ただ、くっついているだけで、幸せで。
彼女の真似をして、自分の頬を擦り付けると、もっと幸せで。
ずっとこうしていられるし、この瞬間がずっと続けばいいのに、だなんて、思ってしまった。
* * *
せっかく、「真春ちゃん、気合い入ってるわね~」ってお母様に言われちゃうくらいにはおめかししてきたのに、お布団に潜り込んで、抱きしめあったりなんかしちゃったら髪も服もしわくちゃですよ。
……ま、別にいいですけど。
だって。
たかがこれだけなのに、わたし、とっても幸せなんですもん。
ただ、せんぱいと、あたたかいおふとんの中で、抱きしめあっているだけで。
……おねだりしたら、せんぱいがいきなりわたしを抱き寄せたのにはちょっとびっくりしましたけど。
今度はわたしがびっくりさせる番です。
ほっぺをすりつけたら、ちょうど口が耳の前に来たので、囁いちゃいます。
「だーいすき」
あ。
腕の中でぴくんって跳ねました。
「かわいいですよ?」
「だいだーい好き」
あう。
今度はわたしの体が跳ねちゃいました。これやばい。
……先手必勝ですね。
「だいだいだーいすき」
せんぱいの口から、変な声が漏れました。
「だいすき、だいすき」
「だーいすき」
ふたりして、テープレコーダーみたいに、この4文字をお互いに囁き続けました。
……だって、幸せなんですもん。言っても、言われても、胸の奥がきゅんってあったかくなって、幸せがあふれ出てくるんですもん。仕方ないじゃないですか。
こんなのずるいです。せんぱいもずるいです。
# # #
結局、ふたりしてだいすきだいすき言いまくってたわけだが。朝っぱらから何をしてるんだ俺らは。
家の前を通るゴミ収集車の音で、我に返った。
「えっと、これ今何時です?」
「9時過ぎ、くらいかな」
「寝坊じゃないですか」
「俺は8時には目覚めてたんだが」
「わたしはもっと早いですよーだ」
……ふむ。
「ありがとな、今日のために」
「別に、わたしが好きでやってることですし」
「何を?」
へー、そういうこと聞くんですかとばかりに、後輩ちゃんが挑発的な笑みを浮かべる。
俺の頭を、逃げられないように頭でがちっとロックして、耳元に近付いていき……
「せんぱいを、です」
予想がついていたとはいえ、大好きな人に、大好きな声で囁かれるとぴくっとなってしまう。
「じゃなくて!」
「誘ったのせんぱいじゃないですか……」
「ぞくっとしちゃうから」
「へー、また今度やりますね」
「やらんでいい」
「じゃあやりません」
あっさり引き下がられて、拍子抜けしてしまった。
……実際、やってほしくないわけじゃないんだけど。
「……まあ、それはいい」
「あ、やっぱりやってほしいんですか?」
「それはいいって言ってるだろ……」
* * *
せんぱいをからかったりくすぐったりするの、やっぱり楽しいです。反応が。
「で、だ。この後、どうする?」
気を取り直したせんぱいが、この後の行動を相談してきます。
特にかっちりと決めているわけではないんですけど、どうしましょう。
……うーん、でも、もういまさら外には出たくないですね。寒いので。
「提案があるんですけど」
「なんだ」
「このままゆっくりしませんか」
「……いいのか?」
せんぱいが、わたしの洋服と髪とをちらりと見てから言います。
1年も経つと、だいぶこういうところには気付くようになってきてくれて、乙女的にもうれしいですね。
「外、寒いので」
ふとん(&せんぱい)のあったかさを知ってしまったからには、もう北風吹きすさぶ外になんて行けません。
「そんな理由かよ……」
「不服ですか?」
「いいえ」
「それじゃあ、せんぱい、『今日の一問』です」
さて。せんぱいはどこまで答えてくれるでしょうか。
「ずっと、わたしといっしょにいてくれますか?」
ちょっとだけ考えてから、せんぱいが答えます。
「……今日は、な」
「今日以外は?」
「約束はできない、けど」
「いじわる」
「何より、そういうロマンチックなことは求めてないでしょ、後輩ちゃん」
そうかもしれませんけど、ね。
「試してみます? 『今日の1問』で」
「いや、遠慮しとくわ」
「えー」
「……まあ、とにかく、今俺が抱えてるこの気持ちがずーっと続くとしたら、それならずっと、真春と一緒にいてやるよ」
あらうれしい。
「むしろ、いさせてください」
「……ふふっ。そういうまじめなところも、大好きですよ」
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この後、めちゃくちゃ抱き締め合った。
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