第47日「せんぱい、文化祭は、なにかするんですか?」
# # #
「秋って、学校行事多いですよね」
「どうした、いきなり」
いつもの朝、いつもの電車で、いつもの場所に収まった後輩ちゃんが、今日も話を始める。
「こないだ、運動会あったじゃないですか」
「うん」
頭がおかしい借り物競争に全力で挑んで、変なところで運を使って、こいつと同着になって。
そして最後にはじゃんけんで決着をつけることになり、結局負けてしまった、物悲しい運動会があった。
……後輩ちゃんからの「お願い」については、ちょいちょい調べ始めている。なんのかんの言っても、校則は校則だから、生徒会長の裁量でちょちょっと改正、とはいかないようだ。最終的には、全校生徒の承認を得ないといけないみたいだ。あー、どうすりゃいいんだろ。
「今度、文化祭があるって聞きました」
「え?」
おとといだかに、文化祭で女装がどうこうみたいな話を振ってきたもんだから、てっきり知ってるものだと思っていた。
「なんで教えてくれないんですか。生徒会長さんなのに」
「いやだから日程表を見ろって」
このやりとり、2週間くらい前にもやったって。運動会の日程がどうこうって。
「探したけどすぐには見つかりませんでした」
「今度LINEで送ってやるよ。今は手元にないから」
「あ、ありがとうございます助かります」
妙な沈黙を3秒くらい挟んで、後輩ちゃんが再び口を開いた。
「クラスの子が、教えてくれたんですよ。今度だよーって」
「うん。次の次の……あれ、いつだっけ? まあとにかく、11月の週末だったはず」
「意外とアバウトですね……」
まあいいです、と言って、彼女はいつものように質問する。
「『今日の一問』です。せんぱい、文化祭は、なにかするんですか?」
「何かするか、って聞かれたら、そりゃ何かはするんだろうな」
「そうじゃなくて」
ちょっと怒ったような感じで、後輩ちゃんがこちらを向く。
「はいはい。文化祭、ねえ」
「わたし、行ったことないんですけどどんな感じなんですか」
「受験前に行かなかったのか」
「ちょっと予定が合わなくて」
「まあいい。んーとね、ひとことで言えば、
「カオス」
「なんでもあり」
「なんでも」
「制御不能」
「明らかに高校の文化祭に向けることばじゃないですよ!?」
思いつくまま単語を並べていたら、止められてしまった。
「いやいや、ほんとだって。行けばわかる」
あんなんでも入学者が集まるあたり、うちの高校も結構謎である。
「というか、せんぱいちゃんと統率とるべきですよ。生徒会長でしょう?」
「だから実務担当じゃないって」
「でも、とるべき責任はあるんじゃ?」
「あのな。そもそもな、文化祭は文化祭実行委員が好き勝手にやるんだ。生徒会の管轄じゃない」
「あ、そうなんですか」
生徒会の真面目な連中に運営権限があったら、あんなに狂った祭りにはなってないと思う。
「どちらにせよ、学校として出欠は取られるから、一度は頭おかしい空間に足を踏み入れないといけないのが辛いところだな」
「えっ……なんですか、マジなやつですか」
「マジなやつ」
「こわいです」
「大丈夫大丈夫、ふつうにしてれば死ぬことはないから」
「死の危険に言及するような文化祭……」
そう言われると、確かにヤバいな。
「安全なエリアもあるからいけるって。生徒会のバザーとか」
「あ、せんぱいバザーやるんですか」
「俺は売上報告書にサインするだけど」
「そこは店番しましょうよ」
「やだよ。最近誰かさんのせいで読みたい本が床に積み上がってるんだよ」
さっさと読んで、本棚に収納したい。
「え、誰のせいですか」
「お前だよ、白々しい」
「バレちゃいました?」
「バレちゃいましたじゃないよ……」
* * *
せんぱいがため息をひとつついて、攻守交替です。
「ところで、後輩ちゃんこそ、文化祭、なにか予定はあるのか? 『今日の一問』だけど」
「……特に、ないです」
せんぱい、と呼びかけようとして、その声がのどから出てきてくれませんでした。
「クラスの企画はだいたい3年生だしなあ。1年生はそもそも申し込む権限がないか」
「そうなんですか」
「そうなんだよ。で、部活が……って、いやおい、美術部員。お前の部活、文化部だろうが」
ああ。そうでしたね。
わたし、美術部の幽霊部員でした。最後に行ったの、いつでしたっけ?
「そうですね。何するのか知らないです」
「これだから最近の若者は……」
だって、部活のラインとか、とうの昔に通知オフにしてますもん。
今、何人がまじめに活動しているのかすら知らないです。最近は、せんぱいを追いかけてばっかりでしたし。
「まあ、あれだ。先輩として言うと、1回くらいは企画側に回るのも面白いと思うぞ」
「3年生でクラスでやりそうですけど」
「よし訂正。2回くらいは」
「せんぱい、2回もやるんですか?」
「俺今年バザーやるもん!」
「サインするだけって」
「わかったよ、本読みながら店番していいか今度までに聞いとくよ」
「すごく生徒会っぽいですね」
えー?
「それ、むしろ図書委員とか文芸部では? 自分たちで書いた小説をまとめてコピー本無料配布です! とか言って置いてあるやつ」
「確かにそうですね」
で。ひとつ区切りを入れて、せんぱいはわたしに視線を送りました。
「よし、なら。俺が企画側で参加する以上、後輩ちゃんも企画側に回るよな?」
そういう言い方は、ずるいです。
断れないじゃないですか。はぁ。
「わかりました。考えてみます」
「政治家か」
「いや、ほんとうに考えますって」
さて。そういうことなら、まずは。
「せんぱい、後で教室にうかがいますね!」
ちょうど、駅に到着したので、かばんを持ち直して、ドアから降りました。
「いやちょっと待て、それはおかしい」
せんぱいが、あわてた口調で追いかけてきます。
# # #
なんだよ。後で教室に来るって。おかしいだろ。
「せんぱいは、ついでですよ」
聞き返したところに戻ってきた答えもびっくりするもので、俺の口から、変な音が漏れた。
「は?」
そして、理解が追いつく。
「ああ」
俺じゃなくて、出塚と話がしたいって
「メインの用件は出塚さんですから、勘違いしないでくださいね?」
「誰が勘違いするか、バカ」
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