第28日「今日、なにしてましたか? せんぱい」
# # #
まはるん♪:おはようございます
まはるん♪:せんぱい
休日。
そう。休日である。休み。ホリデー。
学校の退屈な授業から解放されて、自分の好きなことをできる日。それが、休みの日、土曜日である。
なのに、なんで朝からLINEの音で起こされなきゃあかんのだ。まったく。
まだ外暗……くはないか。でも、普段よりは暗いような?
時間は、朝8時30分。学校に行くんだったら遅刻だけれど、休日にしてはだいぶ早い。俺基準で。
目覚めてしまったものは、仕方がない。布団からのろのろと這い出して(けっこう寒かった)、カーテンを開ける。
空が、暗い。それに、よくよく耳を澄ましてみると、ぱらぱらという音がする。チャーハンじゃねえよ。
雨が、降っていた。
井口慶太 :おはよう
まはるん♪:起きてたんですね!
井口慶太 :バカもやすみやすみ言え
井口慶太 :起こされた、だよ
まはるん♪:あら、そうですか
まはるん♪:それはそうと、
井口慶太 :うん、雨だな
まはるん♪:雨ですね
彼女のメッセージの間に、先を読んで滑り込ませた。成功。
特に、反応はなかった。
まはるん♪:今日は公園の予定でしたけれど
まはるん♪:どうします?
そう。結局、土曜日に近所の公園で自転車の乗り方講習会が開催されることになっていたのだ。
講師俺、生徒後輩ちゃんの。
でもなあ。雨の中で自転車の練習しなきゃいけないほど切羽詰まってるわけでもないしなあ。
寒いし、濡れたくない。
井口慶太 :中止が妥当では?
まはるん♪:ですよねー
まはるん♪:じゃあ、中止で
まはるん♪:明日は晴れるといいですね
井口慶太 :おう
さあ、何が来る?
埋め合わせしてください♪ とか言ってくるんだろ、どうせ。
1分が経ち、
5分待って、
10分間、スマホ画面の文字は動かなかった。まじか。
何だろう。
「週末、どっちか片方しか会わない」みたいな縛りプレイでもしてるのか? あいつ。
# # #
急に、暇になった。
普段なら、まだ布団の中でだらだらしている時間なんだが、寒いし、カーテンは開けちゃったしで、すっかり目が覚めてしまった。はて。何をしようか。
うーんと唸っていると、LINEの音がした。ん? あいつ、結局?
果たして、画面に表示された相手は、
後輩ちゃんより前から、俺がLINEを交換していた相手のひとりである。名前は、
出塚康弘 :暇か?
俺の、クラスメイトである。あと、オタクだ。
すぐに返す。
井口慶太 :めっちゃ暇
出席番号が近いこともあって(お互い「い」なのだ)、ちょくちょく話しているうちに、お互いアニメとかをちょくちょく見ることが判明。今に至る、というわけだ。
出塚康弘 :カラオケ行こうぜ
出塚康弘 :サシで
井口慶太 :え? スシ奢ってくれんの?
出塚康弘 :俺が食いたいわ
そういうことになった。寿司はまた今度になった。
お互い、アニメ好きとわかっている。遠慮はいらない。全力で、自分の趣味の曲だけを歌う。
ちなみに俺は、
俺は『ようこそジャバリパークヘ』を歌った後、『ラブライブ! サンシャイン!!』の曲を連打していた。二期始まったし。出塚はと言うと、アイマス曲を連打しているようだった。アニマスだのデレマスだのミリシタだの、多すぎて正直よくわかんねえよ。
ひとしきり満足したところで、カラオケを出た。正午をとっくに過ぎている。男子高校生の腹はもう、悲鳴を上げていた。歌に夢中で気付いてなかったけど。
回転寿司……ではなく(近所になかった)、目についたサイゼリヤに入る。安い、安い、安い。学生の味方だ。
ドリンクバーからジュースを持ってきて、負担をかけた喉を癒やしていると、出塚がしゃべった。
「にしても井口、びっくりしたよ」
ん?
「いつも生徒会長サマらしく早く来てるお前がさあ、遅刻寸前に、米山と、すげえ楽しそうに話しながら駆け込んでくるんだもん」
マンガみたいに、口に含んだオレンジジュースが出塚のシャツを汚すほど飛び出ることはなかったけれど。
この瞬間、めちゃくちゃ咳き込んだ。
# # #
「なんで知って……」
「教室から裏門丸見えだし」
「そうじゃなくて、なんで後輩ちゃんの名前を」
「俺、美術部、ガンバル。あいつ、美術部、ユウレイ」
あー。そういえば。
こいつは絵がうまいのだ。主に美少女の、だけど。pixivとかにもアップしてるらしい。見たことないけど。
で、後輩ちゃんも美術部だったな。籍だけ置いてますって言ってたのは本当だったのか。
「惚れたか?」
すごくいい笑顔で、出塚が聞いてくる。
「惚れてねーよ」
惚れてないと、思う。たぶん。
あいつの笑う顔とか見てると、変な気分になることはあるけれど、まだ、後戻りできるはず。きっと。
「いやー、同士だと思ってたんだけどなあ。ついに井口にも春が」
「あいつの下の名前、真春だったなそういえば」
「お?」
「いや。来ないから。その前に冬が来るから」
ほら、だいぶ寒くなってきたし。家出る時、コートを羽織るかどうか迷ったくらいだもん。薄いやつ。
「冬の後には春が来るんだろ?」
勝ったぜ、みたいな顔するのやめてほしい。
「いつになるやら」
「お、否定はしないんだ? やっぱ好きなんじゃん」
ぐぬぬ。
「どこが好きなん? なー」
「言わねーし」
「好きじゃない、とは言えないけいたくんなのでした」
嫌い、ではない。無関心、であるはずがない。
だったら、「好き」なんだろうか。
でも。
それを、(ほぼ無関係の)友人の前で言ってしまったら、それが「本当」になってしまいそうで、怖い。
本当になってしまって、自分を抑えられなくて、理性とか、立場とか、
だから、言えない。
きっと、そうだと思う。
「その様子だと、告白はしてないんだな」
「するわけないじゃん」
こいつには、そういえば、話してなかったっけ。
俺は、校則の話と、生徒会長の立場上、それを破るわけにはいかない話をした。
「そんだけ?」
俺がやっとの思いで話し終わると、出塚は、目をぱちくりさせて、俺に確認した。
「それだけだ」
それだけの、つまらない、意地だよ。
「うん。じゃあ、校則変えればいいじゃん。それでお前が納得するんなら」
「それ、後輩ちゃんにも言われたわ」
「じゃあもう変えろよ」
今の御時世、いくらでも理由はつけられるだろ、と言う。まあ、確かに。
たとえば、『第51条。本校の学生同士が男女交際をすることは、これを認めない』という文章そのものを見ても、ツッコミどころはある。「男女交際がだめなら、
そもそも、改正って、どうやるんだ?
試行の海に沈んだ俺に、出塚が声をかける。
「んまあ、なんのかんの言っても最終的に決めるのはお前さんだ。応援はしてやるけど」
ありがとう、と返すべきなのか。それとも、余計なお世話だ、と返すべきなのか。わからなかった。
* * *
晩ごはんを食べて、おふろにも入って、のんびりとした時間が流れています。
そろそろ、いいですかね。
まはるん♪:「今日の一問」です
まはるん♪:今日、なにしてましたか? せんぱい
井口慶太 :カラオケ行ってた
まはるん♪:どうせヒトカラ
井口慶太 :じゃないぞ?
はい?
井口慶太 :クラスの友達と
まはるん♪:せんぱい、友達いたんですか!?
井口慶太 :失礼な
井口慶太 :俺にも少しはいるよ
せんぱい、休日、突発的に、誰かと合わせて出かけるようなイメージじゃなかったので、びっくりしました。
って、あれ? これって、わたしが毎週やっていることのような。もしかして、わたしのせい、ですか?
……まあ、いいです。せんぱいがわたしに染まろうと、勝手です。ちょっとうれしいですけど。
まはるん♪:それだけですか?
井口慶太 :お前の話が出たな
まはるん♪:はあ
井口慶太 :出塚だよ、出塚
まはるん♪:?
井口慶太 :お前なあ……
井口慶太 :美術部の先輩だろ? 覚えとけよ
美術部ですか。
そういえば、そんな名前の方がいた気がします。美術部というより、漫画部に向いていそうな気がしたので、ちょっと覚えています。
まはるん♪:いましたね
井口慶太 :リアクションうっす……
まはるん♪:で?
井口慶太 :校則、とっとと変えろって言われた
その話。
まだ、残ってたんですね。
井口慶太 :なあ。
せんぱいが、わたしに質問します。
井口慶太 :『今日の一問』。
井口慶太 :校則が変えられるって言ったら、変えてほしいか?
わたしは、質問そのものよりも、せんぱいがこれを質問してくれた、という事実の方が嬉しくて。
返事は、ちょっぴり雑になってしまいました。
まはるん♪:はい!もちろん!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます