第5話 慌てた様子でボクの前に回り込んだ琥珀さまが、クイッとお尻を突き出して
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「暁人どの!! 見るなら瑠璃姉のじゃなくて、わらわの」
え、いや、この状態でそんなこというと!!
お母さんの血圧上がっちゃうよ、
「桐生・ローレンス・暁人くん。アンバーに何をしたの!?」
ほら~。
「なにも、まだなんにも⋯⋯」
あ、口に出して言っちゃったよ。
「なにかをする気は、あったのね!?」
コーラルさんの背後に、真っ黒な焔を思わせるオドロ線が揺らめいて見えた。
あ~、マズいぞ。
本格的に幻が見えて来た。
「暁人どの!! わらわは、わらわは嬉しい」
ぎゅーっと、抱きしめちゃダメ。
血が、ああぁ~血が、カーペットに染みが広がっていく。
染み抜き大変なのに。
「そこをどきなさいアンバー!!」
「嫌じゃ。わらわの身も心も、もう暁人どののものなのじゃ」
「心と、身体!?」
天を仰いだコーラルさんが、片手で顔を覆って嘆息した。
あ~、何か誤解してるよ、この人。
「私の娘を汚したな、このケダモノめ!!」
聞いてる?
まだ、なにもしてないって言ったのよ。
あ、キスはした。
軽めバードキスだけど、確かにキスはしましたよ。
だって可愛いんだもん。
仕方ないじゃないか。
好意を持たれてんだし、二人とも命懸けの戦いをした後だったんだ。
本当なら、その後に、ベッドで⋯⋯。
いや。
河童小娘もいたし。
赤鬼さんに、フリッツ六世さんもいたから、あの場で即本番なんてのはさすがに無理だよな。
どんだけ盛り上がったって、無理、無理、無理。
って、いうか、そろそろ誰か止血してくれないかな~
「もう止めるのじゃ母上。わらわのお腹は、暁人どのの」
なに言ってんの、この子!!
逆上したコーラルさんが、琥珀さまの手を取ってボクから無理やり引き離した。
「死ね、死んでしまえ。この色魔め!!」
剣の切っ先がボクの喉を⋯⋯
ああ、もう限界⋯⋯
ボクは、意識を失った。
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酷い夢を見た。
乳白色をした
琥珀さまの母親に切り刻まれるなんて、酷い悪夢もあったもんだ。
ボクは眼を
またボクの布団に潜り込んでる。
ボクは瞼を閉じたまま彼女の手を取って、その指先に優しく唇を押し当てた。
そして、そのまま手の甲にキスをして⋯⋯
「あ、暁人くん!?」
一発で眼が醒めた。
ギョッと眼を見開いたボクの顔を、同じ様に眼を見開いた上樹先輩が困惑気味に見つめていた。
「暁人くん、君ね⋯⋯」
「ああああああ、すみません。寝ぼけてました」
ボクはベッドの上で土下座した。
脚が、胸が、背中が痛い。
なにこれ。
何か、引き吊れるような痛みが全身に⋯⋯
「ほらみなさいラピス。この色魔は、ちょっと油断すると、すぐに食指を伸ばして来るのよ」
このトゲのある言い回し。
コーラル・ライオンロードこと、
琥珀さまと上樹先輩のお母様。
「誤解です」
土下座したままボクは言った。
「全部誤解なんです」
なにがどう全部なのか、言ってるボクにも分からないが、とにかくボクは全部と言った。
「誤解!? わらわを好きと言うたも、誤解なのかや!?」
ああああ、コーラルさんに斬られる事を気にするあまり、琥珀さまの存在を忘れてた。
って言うか、好きって言った覚えは無い。
無いんだけどな~⋯⋯
もしかして、初めて来られた時に言ったの!?
お酒入ってたし。
あの頃は、普通に酔えたし。
どうも一緒に寝てたらしいしい。
もしかして、その時に口走ったの!?
いかにも、ボクがやらかしそうは事だよね。
「あ~、いや、そこは誤解じゃない」
「ほう。そうやって我が娘をたぶらかしたのね⋯⋯」
そこ!!
剣の柄に手をやらないで!!
「そう殺気立たずに。普通に、普通に話しませんか」
「普通にですって?」
鞘に納めたままの剣で、ボクの手を指さした。
上樹先輩の手を握ったままのボクの手を――
ああああああああああああああ!!
「こ、これこそ誤解です」
「暁人どの、やっぱり瑠璃姉のことが好きなんじゃな!!」
「ち、違う!!」
「違う!?」
上樹先輩もショックを受けたような顔しないで。
「私、別に暁人くんに特別な思いは抱いてないけど。違う呼ばわりされるのは、ちょっとショックだな~」
あなた人妻でしょう。
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