第9話
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ボクは正座してた。
というか、正座させられてた。
高校の三年間剣道部の助っ人をしていた頃は、よく板の間で正座をしたけど。
大学に進学し、社会人になってからは初の正座かも知れない。
こういっちゃなんだけど、肉体が強化されても正座は脚が痺れるんだね。
初めて知った。
「なにから説明してもらいましょうか
高校時代と変わらない黒髪に、黒い瞳を輝かせ、にっこりと微笑みを浮かべながら、それでも眼だけは笑わずに上樹先輩がそう言った。
あ~~っと、これは怒ってる時の上樹先輩の顔だ。
何を怒られてるのか、ボクにはよく分からないが、とにかく怒ってる事だけは確かだ。
「あの~、上樹先輩」
「なにかしら」
「まず何の説明からしたら良いですかね」
て、いうか訊きたい事はこっちの方が多いんですけと。
「そうね。まずは
「コハクさまとの関係?」
ピクリと上樹先輩の眉毛が上がった。
「琥珀ちゃん」
「はい!!」
ボクの隣に、同じように正座してる琥珀さまが、驚くほどはきはきとした返事をした。
「あなた、暁人くんに様づけで呼ばせてるの」
「それは、その、あの、暁人どのが初めてわらわと会うた時に、琥珀様と呼んでくれたので⋯⋯」
いや、まあ、その場の勢いで。
真っ赤な鎧にマント羽織って、変な仮面かぶった濁声のおっさんを刺激するのはまずいな~って。
コンシェルジュさんも琥珀様って呼んでたしね。
「ふ~ん、それはきっと、とても良い気分よね~」
「わらわは、琥珀と呼び捨てにして欲しいと言うた!!」
「あと、いつまで、そんな変な喋り方してんの」
上樹先輩が琥珀さまのほっぺをつまんで、両側にイーッと延ばした。
「こりぇが、わらわのデブォルトなのじゃ」
いまデフォルトって言った。
「どうしよう
妹!?
いま確かに妹って言った。
えっ、上樹先輩と琥珀さまって姉妹なの!?
確かに似てるとは想ったけど、まさか本当に姉妹とは⋯⋯
「あなた、いま十六よね」
十六!?
え、琥珀さまって十六歳なの!?
ええええええええ
てっきり二十歳にはなってると想ってた。
「まだ自由に異世界を行き来できる歳じゃないわよね。父さんと母さんの許可はもらってるの?」
あ、眼を逸らした。
「もらってないのね」
ずいっと顔を寄せた上樹先輩が、獲物を射抜くような眼で琥珀さまを見つめた。
あ~っ、恐い。
人の味を覚えたライオンや虎に尋問されたら、きっとこんな感じになるんだろうな。
「る、
「なにが?」
正座をしたまま一歩後退した琥珀さまが、涙目でまくしたてた。
「瑠璃姉は十六で、こっちの世界に留学して、素敵な恋人見つけて、異世界結婚までした。わらわも素敵な恋愛がしたいのじゃ」
上樹先輩が困ったようにため息をついた。
「そうね。六歳だった琥珀ちゃんも、もう年頃だもんね」
「瑠璃姉」
ひしっと抱きしめあった姉妹を見て、ボクもほっこりとした気分になった。
「でも、なぜ暁人くんなの?」
琥珀さまが赤面してる。
「それは、その、あの暁人どのは、わらわの初めての⋯⋯」
ぎょっとした上樹先輩が、ギロリとボクを睨んだ。
ぁぁぁぁぁぁぁ
蛇に睨まれたカエルって、こんな気分なのかな?
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