なんと言っても本作が他と一線を画すのは、ファンタジーでありながらその要素を前面に押し出さないところでしょう。
あくまで一人の老人の死と、天才であった彼の遺産をめぐる人間模様が主軸です。
しかしその社会的背景が純文学と言って差し支えないほど緻密に描かれているため、作品として非常に読み応えがあります。
こうした現実感、生活感があってこそ、ファンタジーは輝きます。
ただ、そのファンタジー部分にしても、決して弱いというわけではない。ダイナミックなギミックが用意されているわけですが、それを解決すれば全てが終わるわけでもない。最後まで読んでも、結局なんだったのか明確な説明があるわけではない。ただ遺物のような印象感が読者の中に残ります。
ただ、怪異というものは謎であるからこそ恐ろしくも神秘的な魅力があるのではないでしょうか。
分類的にはファンタジーですが、それ以外の方にも読んでもらいたい、ハードボイルドな傑作です。