同じ夢を見ていた

タカテン

第1話 うんざり魔王とお馬鹿女勇者

 今宵、俺はドラゴンであった。

 

 突き出た立派な角に、大きな翼と太い尻尾、身体は硬い鱗で覆われ、爪は鋭く、おまけに獰猛な牙が生え揃う口からは火だって噴いちゃう。

 比喩でもなんでもない、まさしくファンタジー世界の定番ボスキャラである、あのドラゴンだ。


 そしてそんな俺の前に女勇者がひとり。

 雄雄しく剣を構え、勇ましく俺に立ち向かう姿は、英雄譚のクライマックスを彷彿とさせる。

 

 しかし。


「……なぁ、そろそろ諦めたらどうだ、勇者よ?」


 俺は何の考えもなく大剣を振るい続ける女勇者に、心底うんざりした口調で話しかけた。


「うるさい! お前を倒すまで諦めてたまるかっ!」


 女勇者が怒鳴る。

 あー、もう、懲りないヤツだな! 

 、延々と付き合わされる俺の身にもなってくれよ。


「はぁ、やっぱりそうか……だったらせめてもう少し考えて攻撃をしてはどうだ? 俺が言うのもなんだが、お前の剣筋はあまりに」


「黙れ!」


 単純すぎてそれでは永遠に俺には当たらない――そう続けるつもりだったのに女勇者は一喝して言葉を遮ると、剣を振りかぶって襲い掛かってきた。


「いや、だからな、そんな真正直に向かってきても、ほら」


 俺は背中を向けてしっぽを伸ばすと、女勇者が剣を振り下ろす前にその額に向かってデコピンを一発。


「ふぎゃあ!」


 それだけで女勇者はごろんごろんと何回転もして吹き飛ばされてしまった。

 てか、ふぎゃあ、ってお前……。

 せっかくおっぱいぼーん、くびれきゅっ、おしりどどーんという、男を魅了するわがままボディの持ち主なのに、言動やらリアクションがあまりに残念すぎる。


 加えて女勇者こいつ、あろうことか俺が密かに恋心を抱いている女の子にそっくりなんだよ。

 とても倒そうなんて気にはなれない。


「くっ。ま、まだだ! 私はまだまだやれるぞ!」


 そんな女勇者がフラフラ立ち上がって、強がってみせる。

 ああ、もうやめてくれよ。ただでさえ良心の呵責を感じているのに、ますます心が痛むじゃないかっ!


 アホだけど健気な女勇者の姿に、いっそのこと負けてあげればいいんじゃないかと思うこともある。

 正直言って、殺されるのも別に怖くないし。

 だけどどういうわけか、


 そして。


「さぁ、魔王よ! 私の剣を受けてみろ!」


 相変わらず何の捻りもない攻撃を女勇者が繰り出そうとしたところで、俺は唐突に夢から覚めるのだった。

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