空に飛び込もう

@aigoroudarou

第1話 今、彼女をふった

初めに―

今、彼女をふった。

美人で頭がよくて、気がきく、クラスでもリーダー的存在の実にいい子だった。

普段は絵に描いたように完璧で、正義感が強いのに、ちょっとドジなところもあって、たまに何かを失敗したり、つまづいて転びそうになったりするときなんかは、格別に可愛かった。みんなの前ではしっかり者なのに、僕の前では甘えんぼで、よく「ぎゅってして?」なんて言ってた―。


さっき僕が「別れよう」と言ったとたん、海華の瞳から涙がこぼれ、すぐに彼女は膝をつき、最後は地面に頭をつけて泣いていた。「いやぁ、駿、いやぁ」って何度も言われ、僕は一瞬彼女を抱き起こして、抱きしめてあげたい衝動に駆られた。

でも僕は何もしなかった。自分を抑え、言い聞かせた。その方がいいのだと。





そんな申し分のない彼女をふったのはなぜか。そこまでして何故ふったのか?

わかるかい?




ーーーそれは僕が死ぬつもりだから。




何かつらいことがあったわけでもないし、いじめられてるわけでもない。

もう、やりたいことは全部やった。

この世に、思い残すことは何もない。

どうせいつか死ぬのなら、美しい若いうちに死にたい。

そう思ったから。




僕の両親は、僕が3歳の時に自殺した。





あの日、僕らの人生が変わった日、二人は僕を祖母に預けて買い物にでかけるところだった。僕は二人に「いってらっしゃい」っといって、手を振り、父がアクセルを踏んだ、その時、女の子が飛び出してきたのだ。 その子は頭を打って即死。近所の僕と幼なじみの子で、その日も僕と遊ぼうと思ってきたようなのだが、僕はよく憶えていない。

ただ、ピンクの服を着た子が、紙人形のように空を舞っていたことだけは、眼に焼きついて、いまだに離れないでいる。



ここまででもかなり衝撃的ではあるが、幼い自分の子をおいて自殺するまでの原因にはならないだろう。 一番の原因はその子が、父の会社が融資を受けていた銀行の頭取の愛娘であったことだ。当時、父は中小企業ではあったけれど、福祉関係の会社を経営していて、それなりに儲かっていた。しかし、早くに妻を亡くし、娘も失った頭取はショックで自殺し、融資も当然ストップ。 マスコミにもだいぶ騒がれ、政治家だった母の父まででてきて、もう毎日家はめちゃくちゃな騒ぎだったらしい。 僕はしばらく父方の実家に連れて行かれ、しばらく母に会えなくていつも泣いていた。やっと母のいない生活になれたころのある日、祖母が出かけている間に両親がいきなりあらわれ、僕に泣いて謝った。何度も何度も謝られ、僕はどうしていいのかわからず、ただオロオロするだけしかできなかった。それが、二人と最後に会った日となった。 二人は睡眠薬を飲み、川に飛び込んだのだ。

そう、この川に―。

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