第6話 容赦しないわ
とりあえず俺は、俺自身がよく分からない、ということにした。
それ自体が事実だからだ。
すると少女が小さく呻いて、
「もしかして魔法を使うのも初めてだったりする?」
「はい」
「……これまで魔力の測定はしたことがある?」
「ないです」
とりあえず事実なのでそう答えると目の前の少女は沈黙してから、
「よほど田舎に住んでいたの? その割には小綺麗な格好をして居るけれど。いえ、これだけの丁寧なものが作れるなら田舎とも思えないわ。それに、田舎とはいえこれだけの魔力のある人間が放っておかれることは、今の時期、ほとんどないでしょうし……そうなると……」
そこで彼女は俺を上から下まで見て、
「武器は持っていなさそうね。だったらいきなり襲い掛かられたりはしなさそう」
「いきなり殴りかかったりなんて普通はしませんよ」
俺は呆れたようにそう返すと、目の前の少女は黙って俺の方を見た。
それから深々とため息をついて、
「ますます貴方は怪しいわ。倫理観もしっかりしているし、こんな所をそんな恰好で一人で歩いているのもおかしい。それに、そうなってくるとある程度の家のお坊ちゃんでしょうから、魔法について知らないとは思えない。……隠しても無駄よ、答えて」
そこで俺は目の前の少女にナイフのようなものを突きつけられた。
いきなりなんでこんな展開にと俺が思っていると、
「彼らの仲間である気配はしない。でも貴方は怪しすぎる。いったい何者なの?」
「そ、そんなことを言われましても」
「下手に動いて魔法を使おうとしたら……容赦しないわ」
などと言われてしまう。
嘘はついていないのに警戒されてしまっている、だが俺としては、
「あ、あの、一つだけその、俺が何者か素直に言うので、条件を付けていいですか?」
「……ものによるわね」
「こ、この世界と言いますかここの周辺について教えて欲しいのです。俺、よく分からなくて」
「……いいわ。どういった理由があるのか分からないけれど、その程度なら答えてあげる」
彼女がそう答えるのを聞きながら俺は、もうこうなったら仕方がないと思って、
「俺、“異世界人”なんです」
「……え?」
「今日、今ここに来たばかりなので……この世界の事は全く知らないのです」
そう、目の前の彼女に返したのだった。
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