たった一人の姉が教えてくれたこと―手記―

@karaokeoff0305

たった一人の姉が教えてくれたこと―手記―

俺の姉は、俺が4歳の時小児がんで亡くなった。

俺自身、あまりに幼なかったので記憶は薄いが、どんな顔だったか・どんなことを話していたかは、微かにではあるが、記憶に残っている。



「徳(とく)ちゃん、それ取って」


あれはもう彼女が重度の病に侵されていた頃だっただろうか。

長引く入院生活で退屈していた彼女はしょっちゅう俺にそう話し掛けてきた。


「咲(さき)は言い出すと聞かないから―」


それが、いつもの母の口癖だった。

我儘で、乱暴で、一度言い出すと止まらない姉。

しかし、いつの間にか多くの人を惹きつけている。彼女の周りにはいつも笑顔が溢れていた。



「咲姉ちゃんは、もうすぐ死んじゃうの?」



―一度だけ、母にそう問い掛けた時、母は恐ろしい形相をして俺に言った。



「誰からそんなことを聞いたの?受付のお姉さん?」


「な、ナースさんが・・・『あの子はもう長くはないわね、可哀想に』って…

長くはない、ってもうすぐ死んじゃうってことなんでしょう?

幼稚園の先生が言ってたの」



あの日―自身が言った言葉を思い出すと、自責の念に駆られ眠れないことがある。

意味が解らなかったとはいえ、なんて残酷なことを口にしてしまったのだろう。

当時の母の心境や、置かれていた状況のことを思い出すと、酷く胸が痛む。



「××県△△市の〇×高校で、男子高校生が首を吊って自殺」

「大手電通会社で、正社員の女子社員が過労で追い詰められ飛び込み自殺」

―そんなニュースを目にするたび、キリリと胸が締め付けられる。



あの日、7歳という若さであの世に旅立った姉。

行きたかった場所、叶えたい夢―志半ばであの世へと旅立っていった姉のことを

想うと、『自殺』という行為をおいそれと肯定することが出来ない。



「徳ちゃん、ばいばい」


姉があの世へと旅立っていった日。

彼女は小さく手を振り、笑みを浮かべて俺にそう言った。

―自身が死ぬということを予感していたのだろうか?7歳という幼さで?

亡くなってしまった今では確かめる余地もないが、だがあの日彼女が燃やしていた命の炎は、 今でも俺の中で燃え続けている。



『つらい想いをするくらいなら、死んだほうがマシだ』

『死ぬより辛い思いをしている人がいることを忘れるな』

そういう意見や考えも、痛い程解る。俺自身も死んだ方が増しではないか、と思うような辛い体験(イジメ、パワハラetc...)に遭ってきた。



だけど、命を投げ出す前に、胸に手を当てて一度考えてみて欲しい。

今、心臓が脈打っていることの奇蹟。

この瞬間にも、志半ばであの世へ旅立っている人がいるということ。

この小説を読んだ貴方が、自殺について考え直してくれれば幸いです。



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