エルフ・オブ・サムライガール

雨夜

第1話 助けたエルフに連れていかれて。

「いや、困ります……」


 駅裏の通りを歩いていたら、路地のほうからそんな声が聞こえてきた。儚げで美人そうな女性の声だ。それに続いて、「いいじゃんよぉ」とか「へっへっ」みたいな、いかにも下種い感じの男の声も複数聞こえてくる。

 これは行かねばなるまい、と俺はスマホのカメラを起動させながら路地に踏み入る。


「これこれ、きみたち。女の子をいじめちゃ――」

「あーッ! てめーらうっせーんじゃーッ!!」


 声をかけようとした途中で、女性の怒声。そして間髪入れず、バチッと白い閃光、爆ぜる音。


「ぎゃっ!!」

「うっ!?」


 短い悲鳴を残して、男たちが崩れ落ちる。

 そのおかげで、スマホ片手に唖然としていた俺の視界に、女性の姿がばっちり見えた。


 メイドさんだった。


 銀髪ロングをぶわぶわ逆立たせた、尖り耳でモデルみたにすらりと美人なメイドさんだった。なお、ロングスカートの正調メイドではなく、ミニ丈ニーソのメイド喫茶スタイルである。


「お呼びじゃねんだっつの、ったく……」


 倒れた男どもを睥睨しながら悪態を吐いていたメイドさんが顔を上げる。


「あ……」


 間抜けに棒立ちしていた俺と、目が合った。

 ぱちくりと互いに瞬き。


「……見てた?」


 彼女の言葉は質問ではなく確認だ。

 それが分かっていたけど、俺は「いいえ、まったく」と首を横に振る。


「そう」


 彼女はにっこり頬笑む。とっても素敵だ。つられて俺も顔が緩みかけたけど、笑顔を浮かべたままの彼女がつかつか近付いてきたことで、俺の顔は中途半端な半笑いで固まった。

 あれ? これ、逃げたほうがいいのかなー? ……と思ったときにはもう遅く、彼女はあっという間に目の前まで来ていた。腰を上をぶれさせない、滑るような歩き方。まるで軍人だった。


「あ、あの――」

「来て」


 彼女はまったく変わらない笑顔のまま俺の手を取ると、路地の奥へと歩き出す。逃げだそうにも、彼女の手は万力のように力強くて振り解けない。大人しく従うしかなかった。

 路地はすぐ行き止まりになる。あるのは塀だ。でもなぜか、その塀には扉が嵌っている。

 喫茶店やファミレスの玄関扉とよく似ているな、と思っているうちに、彼女はその扉を引き開けた。

 その途端、カランカランと来客を告げるベルが鳴る。ますます飲食店じみているな、と笑いが込み上げてくるなか、俺に先立って扉の内側に入った彼女が、明るい声を張り上げた。


「旦那様をお連れたしたでござるよぉ」


 その途端、大勢の女性の声がそれに応じた。


「お帰りなさいませでござる、旦那様!」


 ……ここ数分間、理解しがたいことの連続だったけれど、これだけは悩まずに理解できた。

 扉を開けたその先は、メイド喫茶でした。

 ……たぶん。


 いや、なんで「ござる」なのかは分からないけど。

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