第286話「初めての親友(ホンモノ)」
「桃井さん! おはよう!」
「うん、おはようー♪」
(高校生になって、もう一週間……。それなのに、中学生の時と何かが変わることもなく、あたしは『偽者』のまま。
別に、高校生になれば何かが変わるとは思っていない。ただ、それでも……少しだけ、そうほんの少しだけ『何か』を期待してしまうのは罪だろうか……)
「ねぇ、桃井さん! この俳優見て! 超イケメンじゃない!?」
「あ、知っているー! この人『キヌタク』でしょ! 最近有名なイケメン俳優だってテレビで見たよー」
「そうなの! 流石は桃井さん!」
(例えば、今この場でこの子と話している『あたし』はあたしではない。だから、本当はイケメン俳優なんて興味もないしカッコいいとも思えない。
それでも『あたし』はこの子がこの話題をすると思うからこの俳優のドラマもニュースもチェックするのを欠かすことはない。
だって、この子と話している『あたし』はあたしの『偽者』だから……。
中学生の時からあたしは周りに理想の『あたし』を求められていた。それは例えば大好きなイケメン俳優の話ができる『あたし』だったり……または、クラスのムードメイカーで人気者の『あたし』だったり……気づいた時にはあたしは誰かの理想とする『あたし』でいることを求められていた。
だから、あたしは皆の期待に応えられる『あたし』を偽ってきた。
でも、別にそれを辛いとは思ったことはない。
ただ『本気』になれないだけ。
全てを偽って客観的に周りを見ているせいか、あたしには『本気』になれるものがない。だから、あたしの周りは『偽物』で埋まっている。
偽った『あたし』で作ったものなんて、所詮はただの贋作……『偽物』でしかない。
偽物……フフ『偽者』のあたしにはピッタリの言葉だね……)
「そうだ! 桃井さんって、今日のカラオケは当然来るでしょ?」
「うん、当然行くよー♪」
(そういえば、クラスの親睦をかねたカラオケって今日だったね……。
高校生になってそろそろ一週間だし、このカラオケで大体のクラスカーストが決まりそうな感じだねー。確か、あたしが知っている範囲だと八割のクラスメイトは呼ばれていたはずだけど……まぁ、呼ばれなかった残りの二割はお察しだねー♪)
「それでは~、高校一年! このクラスの皆に出会えたことを記念してぇ~」
「「「「「かんぱぁーい!」」」」」
「キャー! 高校も同じクラスだね!」
「同じクラスのフレンズなんだね!」
「おい、山田! なんで唐揚げにマヨネーズかけてんだよ!?」
「え! だって、俺が『かけちゃっていいよな!』って言ったら、吉田が!」
「その場合にかけるなら普通は『レモン』だろ!? 唐揚げにしょっぱなからマヨかける奴が何処にいるんだよ!」
「それはぁ~、俺だ俺だ誰だ俺だ俺だ俺だ俺だ俺だ俺だぁああああああああああああああああああああああ!」
「山田ぁあああああああああああああああああ!」
「ウェーイ!」
(ふーん……大体は思った通りの感じだねー。あの子とあの子は一つの女子グループになりそう。あのうるさい男子達もそのまま一つのグループになりそうかなー?
あと、このクラスで中心になりそうなのは……)
「ウフフ、桃井さん。これから一年同じクラスメイトとして、宜しくね♪」
「うん! 朝倉さんも宜しくねー♪」
(そう、この『朝倉さん』かな。入学当初から『凄い完璧美少女がいる』って話題になっていたけど、まさに噂通りの美少女……。
そして、何より彼女は――)
「あ、朝倉さん! 朝倉さんって、好きな歌は何!?」
「朝倉さん! から揚げ食べる!? ちょっと、一匹のバカがマヨかけちゃったけど、マヨネーズは好き?」
「朝倉さん、朝倉さん! 俺と俺と俺と話そうぜ!」
「ウェーイ!」
「あ、朝倉さんは私とフレンズにならないかな?」
(――『本物』だ。
朝倉さんってば、すごい人気だね。このカラオケに参加した生徒のほとんどが男女を問わず朝倉さんに取り入ろうとしている。
そりゃそうだ。だって、朝倉さんはあたしなんかとは違って自分を偽ってない。そのままの自分で人に求められる本物のスターだ。
彼女に『友達』と認められるだけでその人のクラスカーストは、きっと保証される。だから、皆は朝倉さんに気に入られようと必死になる。
そして、あたしは――)
「えっと、席を外すねー♪」
「朝倉さん! 朝倉さんって、どんな男の子がタイプ!?」
「えっと、そうねぇ……」
「はぁ……」
(本来なら、あたしも空気を読んで朝倉さんに質問するのが『クラスメイト』としてベストなのかもしれない。だって、皆が朝倉さんへの質問タイムで盛り上がっている時に席を立つなんて空気を読めないにもほどがあるもん。
それに、あたしならうまくやれば朝倉さんに上手く取り入って『親友』ポジションにだってなれるかもしれない。
そうしたら、あたしの高校生活も確実に保証されるだろう。
そう、中学校と同じで『偽物』で保障された空っぽの高校生活に……。
だから、あたしはあの空間から逃げ出したのかもしれない。
その証拠に、あたしが席を立っても声をかける人は誰もいない。だって、皆は『偽者』のあたしより『本物』の朝倉さんに夢中だから――)
「桃井さん。ちょっと、いいかしら?」
「え……あ、朝倉さん……何でここに?」
(どうして、朝倉さんが部屋の外にいるの……? 皆は? それに、ここは私達の部屋から少し離れた廊下だから、ドリンクバーやトイレじゃあ通らないはずなのに……)
「もう、探しちゃったじゃない? 桃井さんってばこんな所で休んでいるだもの!」
「え……え? 朝倉さん、皆は……?」
「皆? あぁ……ちょっと、疲れちゃったから逃げてきちゃったわ♪」
「に、逃げてきたって……そんな!?」
(いくら自分が『本物』だからって、そんな空気を壊すようなことして、もし皆に嫌われたら……)
「ウフフ。だから、桃井さんと一緒ね♪」
「え……」
(あたしと朝倉さんが……一緒?)
「だって、桃井さんも皆からの質問攻めに疲れたからこんな場所にいるんでしょう?」
「そ、それは……」
(……違う。だけど――)
「朝倉さんは、そうなのかな?」
「私は桃井さんを探しに来たのよ。」
「あ、あたしを……な、何で?」
「ウフフ、そんなの桃井さんと仲良くなりたいと思ったからに決まっているじゃない♪」
「…………へ?」
「だって、桃井さん。私が質問攻めにあっているのを見て、わざと席を外したでしょう? それを見て思ったの『あぁ、この人は私のことを思って席を外してくれたんだな』ってね。 もし、桃井さんもあの会話に入っていたら、私の質問攻めも終わらないし、こうして無理矢理抜け出すもの厳しくなっていたもの!
だから、桃井さん。私とお友達になってくれないかしら♪」
「あ……」
(その言葉は偽者の『あたし』ではなく、初めて本当のあたしに向けて言われた言葉……。
今までの
朝倉さんは偽った姿の『あたし』ではなく、偶然見せた本当のあたしを見て友達になりたいと思ってくれた……。
そんなのはあたしが自分を偽って来た中で初めての経験。
そして、それを
それがまるで、この友達は『偽物』ではないと言われているみたいで……)
「えへ、じゃあ、あたし達。今日から『親友』だねー♪
宜しくね。朝倉さん!」
(まるで、それを求めるみたいに、あたしは自然とその言葉を口にしてしまった)
「うーん、なんか少し違うわね……」
「え?」
「桃……もぉ~も? モモ……うん、これね!
親友って言うくらいなんだから『さん』づけなんて固いと思わない? だから、今日から『あだ名』で呼び合いましょう!
私は桃井さんのことを『モモ』って呼ぶわ! だから、モモも私にピッタリのあだ名をつけてくれるかしら♪」
「あだ名……う、うん! えっとねー。じゃあ『サクラ』なんてどうかなー?」
「なるほど『あさくら』だから、最初の『あ』を取って『サクラ』ね! ええ、そうしましょう! モモ♪」
「えへへー♪」
(本当は桜の花言葉が『純潔』で『本物』の朝倉さんにピッタリだと思ったから……なんだけどねー)
「あらためて、これから宜しくね。モモ♪」
「……うん! 宜しくね。サクラ♪」
(サクラは『本物』だ。そして、あたしの初めての『
だから、あたしはサクラのためにできることは何でもすると決めた。
本物であるサクラが汚れることのないよう『偽者』のあたしは裏方に徹する。
だって、あたしは『
「いつか、あたしにも見つかるかな?」
(偽者でも
「モモ、何か言ったかしら?」
「ううん、なんでもない……。
さぁ! サクラ、皆のところに戻ろうよー♪」
【次回予告】
「皆、いつも応援してくれてありがとうね。委員長よ♪
何故かの2巻発売まであと2日!
クフフ……2巻を読んだあとに、この話を読み返してみるのもいいかもしれないわね?
さーて、次回の『何故かの』は?」
次回「『何故かの』(桃井さんルート)」 よろしくお願いします!
「じゃあ、いつもの『ペタリンじゃんけん』も始めるわよ。出す手は決まった? もちろん、私は決めてるわ。じゃあ、いくわよ?
ペタペタ・ペタりん♪ じゃん・けん・ポン♪」
グーかな?
グーかも?
グーじゃない?
グーだったりして……
本当は『グー』を出すかもしれないわよ……?
【グー!】
「クフフ……皆のコメント、評価、待ってるわね♪」
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